2023 年 25 巻 2 号 p. 109-122
リンゴの葉切片からのシュート再分化率向上を目的として培養維持期間,培地の植物成長調節物質組成,葉面積,ガラス化率を指標に培養手順に関する検討を行った.材料には屋外で成育する植物体を培養系に入れる操作から実験に使用するまでの期間(培養維持期間)が異なる‘ふじ’を用いた.シュート再分化培地は植物成長調節物質濃度の異なる3種類を使用した.培養維持期間が6ヶ月の‘ふじ’は使用したすべての培地で再分化率が低く,葉切片からのシュート再分化実験には不適と考えられた.高濃度のサイトカイニン添加は培養維持期間6ヶ月目のシュート再分化率向上には効果があったが,1年7.5ヶ月以降では有意な効果が認められなかった.培養維持期間6ヶ月では,3種類の培地すべてで1ヶ月目の葉面積と3ヶ月目の再分化率に有意な相関があり,再分化率の向上には葉面積の拡大が必要と判断された.いずれの培地でも再分化率向上のための葉面積の拡大要求は培養維持期間の経過とともに小さくなることが明らかとなった.TDZ濃度とサイトカイニン/オーキシン濃度比は,その値が大きくなるほど葉面積が拡大することが示唆された.ガラス化は培養維持期間が短いほど発生割合が高く,再分化培地中のサイトカイニンの添加量の増加,サイトカイニン/オーキシン比の上昇によって発生が増加することが判明した.MBNZ511培地は培養維持期間が1年7.5ヶ月以降の区で再分化率が90%を超える場合があり,その場合の置床後1ヶ月目の平均葉面積は30 mm2以上であった.したがって,1ヶ月目に30 mm2以上の葉切片を選抜することで効率よく形質転換体が獲得できる可能性が考えられた.