育種学研究
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イネ葯の昼夜変温培養によるカルス形成率および植物体再分化率の向上
岡本 吉弘木下 厚佐竹 徹夫
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2001 年 3 巻 2 号 p. 87-94

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抄録

温度は植物個体や培養組織の生育を左右する重要な要因である.イネの葯は一般に25~28℃ の範囲内の恒温条件で培養されているが, 植物個体はしばしば昼夜恒温条件より昼夜変温条件でよい生育をする.本研究ではこのことに着目して, イネの葯培養効率に対する昼夜変温の効果を検討した.生理的に均質な葯を供試するため, ポットに密植栽培した主稈穂の特定穎花から1核中期~後期の花粉を含む葯を採取し, 1区当たり1000葯前後を培養した.水稲品種「キタアケ」を用いて液体培養で小胞子由来のカルスを誘導した結果, 昼夜変温区 (昼30℃/夜20℃) の葯当たりカルス形成率は昼夜恒温区 (昼25℃/夜25℃) のそれに比べて明らかに高かった.カルス形成率を向上させる昼夜変温の効果は, 「きらら397」, 「ゆきひかり」, 「彩」の3品種でも認められ, さらに液体培地だけでなく寒天培地でも認められた.脱分化期の昼夜変温はカルス形成率を高めただけでなく, 昼夜変温下で形成されたカルスはアルビノ個体の発生が少なかった.一方, 個体再分化期の昼夜変温は緑色個体再分化カルス率を増加させた.カルス誘導から個体再分化までの全期間を昼夜変温で培養することにより, 葯当たりカルス形成率, 緑色個体再分化力ルス率および葯当たり緑色植物再分化率は, 品種および年次を込みにした6回の実験の平均値で, それぞれ96%(昼夜恒温区の1.6倍), 42%(同1.4倍) および41%(同2.4倍) であった.昼30℃/夜20℃ の昼夜変温はイネの葯培養効率を高める手段として, 育種の現場でも基礎研究の場でも利用できる.

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