育種学雑誌
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タバコの子房内における花粉管の行動
丸橋 亘中島 哲夫
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1981 年 31 巻 2 号 p. 133-140

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抄録
試験管内受精法を遠縁交雑に利用しようとする試みは,2,3なされているが,まだ具体的な成果は得られていない。この原因の一つには,雑種胚を含む胚珠の培養技術に不備な点が多いことをあげることができる。しかし一方,花粉管の伸長,胚珠への侵入など試験管内での受精にいたる過程についても解決しなげればならない問題が残されている。このようなところから,本研究では,in vitroの実験に先立って,まず子房内における花粉管の行動を詳細に検討しようと考えた。タバコを自家受粉し,子房内における花粉管の行動を,主として走査型電子顕微鏡により経時的に観察した。一方,暗視野顕微鏡によって,花粉管の胚珠への侵入を簡易に確認できることを明らかにし,その手法を本研究に利用した。この方法では,花粉管が侵入した助細胞が,他の細胞に比べ著しく輝いて観察される。この現象は,異種(ペチュニア)の花粉管が侵入した場合にも同様に観察された。観察の結果,次の諸点が明らかにたった。花柱の中心部を通る誘導組織は,花柱の基部で2分し,各々胎座上部にスリットとなって開口している。受粉後約32時間目に,花粉管はこのスリットから束になって子房腔内に現れた。しかし,これらの花粉管は胚珠に侵入することなく,胎座表面こ花粉管の層を作って下降し,早いものは受粉約38時問後には胎座の基底部に達した。一方,おくれてスリットから子房腔に出た花粉管は,花粉管の層の上を伸長するので,珠孔により近い位置にあり,これらの花粉管が珠孔に侵入するものと考えられた。また,タバコでは珠孔が珠柄に対して胎座の基部側に開口しているので,花粉管はその伸長方向を変えて珠孔に侵入することが観察できた。
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