抄録
高等植物のトリプトファン合成は,アソスラニルシンセターゼのトリプトファンによるフィードバック阻害によってコントロールされているが,5一メチルトリプトファン(5MT)耐性の培養細胞では,この酵素はトリプトファンによる阻害が受けにくいことが知られている.しかしながら,これらの細胞から再生個体を得ることが困難であること,また,耐性の突然変異個体が育成されなかったこともあり,トリプトファン合成酵素について,5MT耐性個体を用いた研究はない.本研究では,受精時にエチルメタンサルフォネイト(EMS)を処理することによって得られたトウモロコシの5MT耐性株MR1(Kang and Kameya 1993)のホモ系統の植物個体を用いて,トリプトファン合成経路の酵素であるアソスラニルシンセターゼ(AS)とトリプトファンシンターゼ(TS)の特性を調査した. まず,ASの活性MR1と対照植物について調査した.5MTを含まない培地では育成した場合には,両者間では差異はなかったが,5MT(25ppm)培地で育成した場合にはMR1の酵素活性は対照植物のものより,2倍程高かった.また,ASのトリプトファンによる阻害効果を見ると,AS活性が50%阻害するトリプトファンの濃度は対照植物では5ppm,MR1では20ppmを必要とした.これらの結果から,MR1は5MT及びトリプトファンによるASの活性阻害に対して耐性であることがわかった