育種学雑誌
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ツルマメで見いだされたβ-コングリシニン欠失性の優性遺伝子
羽鹿 牧太高橋 将一酒井 真次松永 亮一
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1998 年 48 巻 4 号 p. 383-386

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抄録

7S蛋白質(β-conglycinin)は11S蛋白質とともにダイズ種子蛋白質の70%を占める主要な貯蔵蛋白質であるが,11S蛋白質と比べ含硫アミノ酸含量が少なく,ゲル強度や栄養性が劣る。7S蛋白質と11S蛋白質は相補的な関係にあることが知られているので,11S蛋白質含量が高いダイズの育成のために7S蛋白質欠失の遺伝資源が求められてきた。7S蛋白質はα,α',βの3つのサブユニットからなり,αサブユニット欠失,α'サブユニット欠失等の変異が知られているが,βサブユニット欠失変異が見つかっていないため,これらの変異系統を組み合わせた7S蛋白質完全欠失系統は育成されていない。また放射線突然変異により2つの7S蛋白質欠失系統が作出されたが,これらの系統は致死変異であり,育種素材としては利用されていない。最近我々は天草から収集したツルマメに7S蛋白質を欠失した系統を見いだし,この系統が正常に生育することを報告した。我々はこの系統をQT2系統と名付け,また7S蛋白質を欠失しているにもかかわらず,正常に生育するため,致死の7S蛋白質欠失変異と区別するためにこの表現型をQT2-typeと呼ぶことにした。このQT2-typeの遺伝様式を明らかにするために,普通ダイズや種子リポキシゲナーゼ欠失ダイズ等と交配実験を行った。その結果,QT2-typeは単一の優性遺伝子により支配され,また7S蛋白質のα'サブユニットやリポキシゲテーゼの3つのアイソザイムとは独立に遺伝することが明らかとなった。我々はこの遺伝子にScgの遺伝子記号を付与した。得られたQT2-typeの後代はリポキシゲテーゼ欠失の系統を含め全て正常に生育し,QT2系統は7S蛋白質欠失ダイズ育成のための遺伝資源として利用できると考えられた。

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