2013 年 4 巻 2 号 p. 107-114
急性腎傷害(AKI)の発生頻度は年々増加しており,とくにICU領域で発症したAKIの生命予後は不良である。血液浄化療法の導入が必ずしもAKIの予後改善に寄与するとは限らない1)。これは腎臓で生じた傷害が腎局所にとどまらず,心臓・肺・脳・消化管・肝臓といった腎臓以外のさまざまな遠隔主要臓器に連続して,かつ同時に傷害が発生し,多臓器不全に進行する危険が高いことが,AKIの生命予後不良の原因の1つと考えられている2)。このため,AKIの治療にあたっては,腎保護・腎機能代替療法の適応を考慮するだけでなく,主要臓器障害の発症の可能性を常にモニタリングする必要がある。AKIによる遠隔臓器障害発症の共通機序として,炎症性メディエーターの関与が重要である。腎臓で虚血障害をはじめとするさまざまな障害の結果誘導された炎症性メディエーターは,腎局所の障害に関与するばかりでなく,全身の自然免疫を活性化し,Toll様受容体の活性化,活性酸素,補体活性化に引き続き,各臓器に特有のケモカイン発現亢進,好中球・マクロファージの活性化が引き起こされ,最終的に各遠隔臓器の生理的機能の異常をきたす。AKIにより複数の腎臓以外の遠隔臓器の障害が引き起こされる状況では,全身性炎症反応症候群(SIRS:systemic inflammatory response syndrome)に代表される複数の炎症性メディエーターが誘導されており,単一のメディエーターを標的とした治療では十分な治療効果が期待できない。このため,AKIにより多臓器不全に移行する危険のある症例に対しては,炎症性メディエーターを除去する目的で,血液浄化療法の適応以前のより早期の段階から(non renal indication)の血液浄化療法の導入が重要と考えられる。