日本生物学的精神医学会誌
Online ISSN : 2186-6465
Print ISSN : 2186-6619
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の早期抗うつ効果発現における分子機構の解析
芳原 輝之内田 周作山形 弘隆大朏 孝治渡邉 義文
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ジャーナル オープンアクセス

2012 年 23 巻 1 号 p. 35-40

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抄録
エピジェネティックな遺伝子発現調節は,様々な精神疾患の病態に関与していることが示唆されており,特に気分障害についてはストレス脆弱性,慢性ストレスや抗うつ薬に対する行動変化,神経可塑性異常への関与が想定されている。ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤は動物実験で,抗うつ効果を示すことが確認されているが,その詳細な分子メカニズムは未解明な部分が大きい。そのため我々は in vivo,in vitro の両面からHDAC阻害剤の分子メカニズムの検討を行った。我々が独自に妥当性を確認したうつ病モデルマウス,BALB/cマウスにおいてHDAC阻害剤のSAHAは,イミプラミンやフルオキセチンのような従来の抗うつ薬ではみられない,速効性の抗うつ効果発現を示すことが確認された。さらに,SAHA投与マウスの海馬においてCaMKIIß mRNA発現が増加していた。培養細胞では,SAHAは神経突起伸展作用を示し,同時にCaMKIIß mRNA発現を促進させた。さらには,CaMKIIßの阻害剤,またCaMKIIßの発現を抑制したsiRNAを用いた実験系ではSAHAによる神経突起伸展作用の阻害が確認された。以上から,HDAC阻害剤による CaMKIIß発現誘導が,抗うつ効果に関与している可能性が示唆された。
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© 2012 日本生物学的精神医学会
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