日本生物学的精神医学会誌
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疲労誘発因子と抗疲労因子:うつ病の疲労による誘発機構
近藤 一博
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キーワード: 疲労, 気分障害, うつ病
ジャーナル オープンアクセス

2013 年 24 巻 4 号 p. 218-221

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抄録

現代はストレス時代と言われ,ストレスの蓄積状態である「疲労」による,うつ病や自殺が増加している。このような状況を打開するためには,疲労を客観的に測定して予防することが必要となる。 我々はこの目的のために,人の意志では変化しない疲労のバイオマーカーを検索し,唾液中に放出されるヒトヘルペスウイルス(HHV-)6による疲労測定法を開発した。HHV-6は突発性発疹の原因ウイルスで,100%の人の体内でマクロファージとアストロサイトに潜伏感染している。マクロファ ージで潜伏感染しているHHV-6は,1週間程度の疲労の蓄積に反応して再活性化し,唾液中に放出される。このため,唾液中のHHV-6の量を測定することによって中長期の疲労の蓄積を知ることができた。 さらに我々は,HHV-6の再活性化の分子機構を研究することにより,疲労因子(FF)と疲労回復因子(FR)の同定に成功した。FF と FRは末梢血検体で測定可能で,被験者の疲労の定量だけでなく,回復力の評価も可能であることが明らかになってきた。 HHV-6は,ほぼ 100%のヒトで脳の前頭葉や側頭葉のアストロサイトに潜伏感染を生じている。この潜伏感染HHV-6も,ストレス・疲労によって再活性化が誘導されると考えられる。 我々は,脳での再活性化時に特異的に産生される,HHV-6潜伏感染遺伝子タンパクSITH-1 を見出した。SITH-1発現は,血液中の抗体産生に反映され,血中抗SITH-1抗体を測定することによって,脳へのストレスと疾患との関係を検討することが可能であった。抗 SITH-1抗体陽性者は,主としてうつ病患者に特異的にみられ,抗 SITH-1抗体がうつ病のバイオマーカーとなることが示唆された。 さらに,SITH-1タンパクを,ウイルスベクターを用いてマウスのアストロサイト特異的に発現させたところ,マウスはうつ症状を呈することがわかった。これらのことより,脳へのストレス・疲労負荷は,潜伏感染HHV-6の再活性化を誘導することによって,潜伏感染タンパクSITH-1を発現させ,うつ病の発症の危険性を増加させるというメカニズムが示唆された。

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© 2013 日本生物学的精神医学会
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