抄録
地下鉄サリン事件(1995)の直後から,弁護士,報道関係者,ボランティアなどによって被害者の支援活動が開始された。その活動の一つが被害者の健康被害に関する追跡調査であった。2001 年,それまで検診を実施してきた有志によって,被害者とその家族をケアする特定非営利活動法人(NPO)R・S・C が設立された。以後,被害者の検診は,R・S・C に引き継がれ現在まで行われている。その調査結果によると,被害者には事件後 20 年を経過しても身体,心理,眼症状が認められる。事故から 10年が経過した 2004 年,我々は,R・S・C の依頼を受け,被害者の健康調査を実施した。その時に多く認められた症状としては,めまい・頭痛・睡眠障害などがあり,感情や思考等の認知機能の問題も少なからず認められることを確かめた。被害者に認められる多くの症状は,通常の検査では異常を認めないことから,不定愁訴として扱われ放置されている可能性がある。サリン事件による健康被害として,急性期の中毒症状,それに続く PTSD による障害は認知されているが,それ以外の慢性の健康被害については未だ明らかでないことが多い。今後さらなる追跡調査が望まれる。