抄録
本稿では,栄養素のなかでヒトを対象とした臨床研究が多いオメガ3系脂肪酸に関して,精神疾患・精神症状への有効性を検討した先行研究を,ランダム化比較試験(RCT)を中心に概観した。このうちうつ病に関しては,数多くのRCTやそのメタ解析が出版されているおり,EPAが主成分のサプリメントを用いた場合はオメガ3系脂肪酸に一定の抗うつ効果があることが示されている。その一方で,これまでのRCTには投与量,投与期間などにばらつきがあること,食事から摂取するオメガ3系脂肪酸の量が非常に多いわが国におけるエビデンスがまだ希薄であることなど現状のエビデンスの限界も合わせて紹介した。また,うつ病以外の精神疾患・精神症状に対する有効性を示したRCTは限られているが,PTSDに関して筆者らが実施したRCTと,統合失調症の発症予防に関する国際的にも知名度の高いRCTについて紹介した。食事・栄養素を用いたアプローチは副作用の少なさから妊婦や子どもなど幅広い集団に適用可能であり,機序の解明も含めて今後のエビデンスの蓄積と治療・予防への実装が期待される。