日本生物学的精神医学会誌
Online ISSN : 2186-6465
Print ISSN : 2186-6619
脳白質異常と精神疾患
池中 一裕
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ジャーナル オープンアクセス

2017 年 28 巻 2 号 p. 64-67

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抄録

精神疾患は当然脳の病気であり,基本的に神経細胞およびそれらが形成する神経回路の異常を伴うことが多い。しかし,最近グリア細胞も脳の高次機能発現に関与することが明らかとなってきたので,グリア細胞異常によって脳の高次機能が正常に働かなくなることも考えられる。すなわち,精神疾患の一部もグリア細胞異常がその病因である可能性がある。本総説ではグリア細胞の中でも髄鞘を形成するオリゴデンドロサイトに注目する。脳白質は有髄線維の通り道であり,灰白質にある神経細胞体で生じた情報を正確に伝える機能を担っているに過ぎないと考えられてきた。しかし,1)軸索の髄鞘形成後もオリゴデンドロサイトが活動依存的に神経情報伝導速度を調節し,2)統合失調症等,精神疾患の病態に白質の障害の関与する証左が得られ,現在,白質の機能を根本的に再考すべき時期に至っている。これまで,白質変性疾患は脱髄疾患が主たるもので,治療法も開発されているが,その知見は精神疾患の病態解明に活かされていない。本総説では,脳領域各部の情報を統合する場として白質の機能を軸索・グリア相互作用を介して明らかにし,その破綻としての病態を学際的に討論したい。

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© 2017 日本生物学的精神医学会
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