日本生物学的精神医学会誌
Online ISSN : 2186-6465
Print ISSN : 2186-6619
統合失調症のガンマ帯域神経振動異常
平野 羊嗣
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2017 年 28 巻 2 号 p. 88-94

詳細
抄録
近年の飛躍的な神経科学の進歩にもかかわらず,統合失調症の病因は未だに不明で,現時点で効果的とされる抗精神病薬は,古典的なドパミン仮説に基づいたドパミン拮抗薬が主体で,現存の治療法では完治に至らないことも多く,同疾患の病態解明および新薬の開発は緊急の課題である。早期診断や早期介入,完治を可能にするためには,新たな病態仮説の発見と,臨床と基礎研究の橋渡しが可能な,生物学的指標の導入が望まれる。近年,統合失調症の脳内では,知覚や認知機能を担うガンマ帯域(30〜100 Hz)の神経振動が異常をきたし,それが病態に関連することがわかってきた。このガンマ帯域神経振動異常は,神経回路内のペースメーカーでもあるGABA作動性の抑制性介在ニューロンの機能低下と,興奮性ニューロンの障害(NMDA受容体の機能低下)ならびに,この両者のバランス(E/Iバランス)もしくはtuningが破綻することによるとされている。ガンマ帯域神経振動異常は,統合失調症のみならず同疾患のモデル動物でも同様の結果が得られるため,統合失調症の新たな病態モデルや治療ターゲットとして支持されている。本稿では,最新の統合失調症のガンマ帯域神経振動異常の知見を中心に紹介し,本指標の生物学的指標としての有用性や臨床的な応用も含めた今後の展望について概観したいと思う。
著者関連情報
© 2017 日本生物学的精神医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top