日本生物学的精神医学会誌
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統合失調症におけるミスマッチ陰性電位(MMN)発生異常
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2020 年 31 巻 3 号 p. 127-133

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抄録

ヒト脳は自動的な音声変化検出の神経機構を発達させてきた。この機構はミスマッチ陰性電位(MMN)に反映される。欠落音MMNのような多くの研究によって,MMNの記憶痕跡説の証拠が集積された。実際,欠落音MMNは160ms以上のSOA(刺激間隔)では誘発されないが,この所見は時間統合窓機能(TWI)の存在を示している。つまり,感覚記憶にコード化された神経痕跡の長さは160〜170msのTWIの長さに相当するのである。最近MMNは,統合失調症における有望な神経生理的バイオマーカーの一つとして期待されているが,興味深いことに早期の統合失調症患者のMMN減衰は,周波数変化MMN等と比較して持続長変化MMN(dMMN)で顕著である。この理由として,dMMNの異常は,TWIの機能不全によって引き起こされている可能性も考えられる。さらに重要なのは,精神病発症危険状態(ARMS)で記録されたdMMNの障害が,統合失調症発症を高率に予測するバイオマーカーとして期待されることである。MMNの主な発生源は,一次聴覚野近傍の上側頭回(STG)と同定されている。多くの神経画像研究が統合失調症におけるSTGの構造異常を明らかにしてきた。また,MMNはNMDA受容体拮抗薬によって著しく減衰,消失することも知られている。さらに,死後脳研究において,DARPP‐32とカルシニューリン(CaN)は,統合失調症においてドパミン−グルタミン酸神経系の異常を密接に反映するが,DARPP‐32とCaNの異常が以前に前頭前野に認められていたよりもSTGで強く認められた。また,統合失調症におけるMMN異常については,最新のメタアナリシスでも0.95という大きな効果量が報告されている。以上の所見をまとめると,STGにおけるdMMN異常が,統合失調症における有望なバイオマーカーであることがわかる。

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