抄録
近年のPET研究によって大うつ病,統合失調症といった内因性精神疾患患者の生体脳において活性化グリアの存在が明らかとなり,主要な精神疾患におけるグリアの病態的関与が示唆されている。また大うつ病患者の死後脳において,アストロサイト終足による脳血管被覆率の低下,つまりグリア血管複合体の形成異常が報告されている。一方,薬物抵抗性の内因性精神疾患に対し有効性を示す電気けいれん療法(electroconvulsive treatment;ECT)は,いわば実臨床における「最後の砦」,現在の生物学的精神科治療の「ポジティブコントロール」とも呼べる治療法であるが,その効果発現メカニズムは不明である。筆者らはこれまで抗うつ薬,抗精神病薬ともin vitroで活性化ミクログリアを抑制することを明らかにしてきたが,近年,活性化グリアと内因性精神疾患の症状に類似した異常行動を呈するGunnラットを用いて,ECTは治療効果発現の際,活性化ミクログリアに加え,活性化アストロサイトも抑制することを見いだした。またGunnラットの脳では活性化アストロサイトの終足による脳血管被覆率が低下しているが,ECTはその低下した脳血管被覆率を増加させることを明らかにした。以上よりECTは,活性化グリアの抑制,およびグリア血管複合体の形成異常の是正を介して治療効果を発揮している可能性が示唆され,グリアは薬剤抵抗性・難治性精神疾患における有望な新規治療標的になると思われる。