抄録
幼少期の社会的孤立は成人期の社会性行動を低下させるが,その神経回路のメカニズムはよくわかっていない。本研究では離乳直後の2週間の社会的隔離により,新規マウス曝露時に後部視床室傍核に投射する内側前頭前野(mPFC→pPVT)投射錐体細胞の活性化が低下することを明らかにした。mPFC→pPVT神経回路の活動を光遺伝学的手法にて抑制すると社会性行動障害がみられた。幼若期の隔離によって,成体期でmPFC→pPVT投射錐体細胞の細胞興奮性が低下し,ソマトスタチン発現低閾値スパイクインターニューロンからの抑制性入力が増加するという社会性行動障害を引き起こす神経回路メカニズムを明らかにした。さらに,mPFC→pPVT神経回路を光遺伝学的に活性化することで,幼若期隔離による社会性行動障害を改善できることが示唆された。筆者らは,社会性行動に必要なmPFC→pPVT投射錐体細胞の細胞興奮性およびその関連する抑制性回路が幼若期の社会的経験によって大きく影響を受けることを明らかにした。