抄録
神経細胞間の情報伝達を担うシナプスには多種多様なタンパク質が集積している。特にシナプス後肥厚(PSD)には1,000種類以上のタンパク質が局在し,それらはシナプスの構造や機能において重要な役割を果たしている。質量分析によるプロテオーム解析はPSDに局在するタンパク質群の同定および定量に寄与してきた。近年では,さまざまな生理的条件や精神・神経疾患においてシナプスやPSDのタンパク質組成がどのように変化するかを分析することで,脳機能や疾患の病態の理解をめざす研究が活発に進められている。本稿では,PSDに局在するタンパク質群について概説し,生後発達期および精神疾患におけるPSDのタンパク質組成の変化について,筆者の最近の成果を含めて解説する。また,これらの知見が精神・神経疾患の基盤解明や新たな治療戦略の構築にどのように貢献し得るかについても議論する。