2024 年 5 巻 3 号 p. 337-348
連立偏微分方程式の偏微分項を直接近似する Physical-Informed Neural Networks(PINNs)は,より高いデータの再現性でより高速に物理現象を解析できる手法として有望であり,最長 2 日程度かかる計算時間を数分に短縮することもできる.一方で,(a) 物理法則に対する厳密性は誤差収束性に依存しており,物理法則の厳密性を確保しようとするとより大きな計算負荷がかかり厳密性と速度にトレードオフがあること(複雑な地形の外水氾濫解析にとっては重要な課題の一つである),(b) 時空間全体を連続関数で表現しているためクリアな地形条件が原理的に苦手であることなど,実際の地形条件の問題への PINN 適用には多くの課題が依然として残っている.
本研究では,階層型グリッドベースの位置埋め込みである K-Plane という手法を改良して PINN に導入することにより,(a) PINN 損失を計算するサンプリング地点数を低減(より高速に計算できる)しても物理法則の厳密性を高い状態で保持でき,(b) K-Plane に地形条件を事前学習させることで,堤防内外などの自然で地形条件に沿った水面を表現可能になることを示す.実際の地形条件での適用の可能性について確認した.地形条件と観測結果があれば,どこでも同様の計算が実現できる.