2012 年 68 巻 7 号 p. III_741-III_749
ベトナムの首都,ハノイは急速な近代化に直面し,廃棄物および廃水の管理が不適切に行われている.本研究では,都市郊外の集落における廃棄物・排水管理が水環境に及ぼす影響を,窒素・リンフローの観点から推定することを目的とした.調査対象地として,ハノイ市南部に位置するTrai集落を選定した.まず,廃棄物・排水管理に着目した窒素・リンのマテリアルフローモデルを構築した.厨芥類,廃水,人屎尿および家畜糞尿と,化学肥料の消費に関する戸別訪問によるアンケート調査を行った後,集落に対してモデルを適用した.その結果,水田への栄養塩類の投入量が最も大きく,その内の窒素で40%,リンで65%は化学肥料由来であった.排水および廃棄物の利用は広く実践されていたが,家畜由来液状廃棄物が100%の割合で魚の養魚池に直接放流されていたことは,この地域における最も深刻な問題として指摘された.同時に,養魚池は排水が公共水域に直接排出される前に,一時的にそれを受け入れる役割を果たしていた.2010年における水域への総栄養塩類負荷量は窒素で185.9 kg-N/ha/年,リンで12.3 kg-P/ha/年であり,水田からの負荷が窒素の70%,養魚池からの負荷がリンの60%を占めていた.