2015 年 71 巻 5 号 p. I_153-I_164
これまで統合評価モデルは主として世界を対象とした中長期的な緩和策の分析に用いられてきた.しかし,その予測精度は明らかにされてこなかった.本研究は統合評価モデルの一つであるAIM/ CGE(Asia-Pacific Integrated Model/ Computable General Equilibrium)モデルを用いて過去のエネルギー消費量の推計を行った.将来推計と同様にGDP,人口,エネルギー技術などの外生条件を与え,エネルギー消費量を統計値と比較し解析を行った.その結果,以下の3つの示唆を得た.第一に,世界合計といった地域集約的な情報は再現性が高く,例えば一次エネルギー供給量の統計値との乖離は10%程度であったが,地域別の情報には再現性の低いものが存在し,特に低所得国でその傾向が見られた.第二に,過去に遡るほど一次エネルギー供給,最終エネルギー消費の再現性は低下した.第三に,エネルギー源で見ると石油,天然ガスの再現性が,部門で見ると交通部門の再現性が他と比べると低く,モデル改良の余地があると考えられた.