2016 年 72 巻 7 号 p. III_489-III_496
本研究では,一度に大量のDNA塩基配列解析を実現した次世代DNAシーケンス解析技術と,DNA配列のみを用いて由来となった種の種名を検索するDNAバーコーディングを活用し,従来は1種毎に行われていた水生昆虫の流域内交流解析を,ユスリカ科12種とカゲロウ目3種の計15種に対して,同時並行に行った.解析対象地域は瀬切れが頻発する愛媛県重信川とし,解析領域はミトコンドリアDNAのCytochrome Oxidase I領域を用いた.その結果,多くの種は瀬切れによる流域内交流への影響が小さかった一方,Baetis sp. MK-2015dとChironomus kiiensisは瀬切れによる移動分散阻害が発生していた.また,移動分散能力が低いことが予想されたユスリカ科の種は,流域内での活発な交流が行われていたことが判明した.本研究では解析対象は15種に限られたが,今後,NGS解析手法の改善およびDNAデータベースの拡充により,解析可能な種が増えると考えられる.さらにNGS解析による多数種の移動分散パターン解析技術が実現することで,生態系に配慮した河川管理へ応用されることが期待される.