抄録
名古屋港において測定された既往の底質データを統計的な手法を用いて解析し,港湾域における底質の物理基本指標や重金属類ならびに多環芳香族炭化水素類(PAHs)等の平面分布の特徴を明らかにした.港内の36地点、35項目のデータをクラスター分析により分類したところ,3つの分布パターンに分類できた.それらは底質の物理指標と有機汚濁指標からなる第1パターン,重金属類を中心とする第2パターン,PAHsの第3パターンである.これらパターン毎の分布の特徴を物理的な性質,化学的な性質を踏まえて考察した.第1パターンに含まれる因子は含水比と強い相関関係があり,岡田らが見出した東京湾での関係と定量的にも近い関係であった.第2パターンには重金属類が含まれ,特に砒素を除く5物質については港奥側での最大値で規格化すると,同一の指数関数的な分布で整理できた.第3パターンはPAHsから構成され,これらを更にクラスター分析で細分すると,環数や分子量,オクタノール・水分配係数の大小に沿って4つに細分類できた.それぞれの分布形状を,CV, 歪度,尖度といった統計量で整理すると,オクタノール・水分配係数とで良い相関関係が得られ,特にオクタノール・水分配係数の小さい物質ほど局所的に堆積していることが示された.これらのことから,港湾域における化学物質の分布は汚染の負荷源の違いや,それぞれの物質が吸着する物質の違いとともに,それらが港湾内で輸送される物理過程に強く依存していることが示唆された.