抄録
A町では,原子力発電所事故の後,全町民に避難指示が出された.約1年後にそれが解除され,町民の帰還が進んでいる.同時に,復興事業の為に多くの作業員が滞在し,A町の人口は事故前に比べて約1.5倍に増えている.人口増加にともないA町の既存浄水場の配水量も増加し,処理能力の限界に近づいていた.作業員宿舎からの生活排水が周辺水環境に与える影響については,宿舎に設置された浄化槽は正常に機能しており,処理水のBODは低かった.この水質から推定した作業員宿舎からの汚濁負荷は,河川のそれに比べて無視できるほど小さかった.この例の通り,原発事故後の住民の避難は長期に及び,移動範囲も広い.これを踏まえて,上水道の広域化,作業員宿舎や仮設住宅の立地検討などの準備が肝要である.