2021 年 77 巻 7 号 p. III_293-III_301
塩素注入量は,現在,高度な技術を持つ職員が経験に基づいて注入量を決定しているが,大量のベテラン職員の退職と職員数の減少などから,経験に依存しない,新しい塩素注入量管理手法が求められている.本研究では,浄水場が保有する残留塩素濃度の時系列データに着目し,時系列の濃度変化の傾向を学習することで,数時間先の残留塩素濃度を推測できる予測モデルの構築を目的とした.具体的には,長期短期記憶ネットワーク(LSTM)アルゴリズムにより,3時間,6時間,12時間,24時間先の残留塩素濃度予測モデルの構築を試みた他,モデルの構築に必要最小限のデータ量を検討した.
モデル構築にあたって最適なブロックは24時間であり,誤差目標値±0.025以下に収めるには,予測時間を6時間以下にする必要があることが判明した.また,モデル構築に必要最小限のデータ量は4月~7月の4か月間の残留塩素濃度低減量であることがわかった.以上より残留塩素濃度の1時間間隔の時系列データが4ヶ月分準備できれば,6時間先の残留塩素濃度をLSTMにより予測できることがわかった.