2022 年 78 巻 5 号 p. I_239-I_250
温室効果ガス排出削減は,大気汚染物質排出量及び濃度低下をもたらし,健康被害低減の便益があるとされる.このうち,PM2.5に由来する超過死亡者数の算出には,従来はIER (Integrated Exposure-Response model)という関数が使用されてきた.しかし,近年IERを改良し推計値の大きく異なるGEMM (Global Exposure Mortality Model)が開発された.本研究では排出経路の異なる複数の将来シナリオを用いて2つの関数による健康影響推計値の違い,および関数の違いがコベネフィット推計に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.結果,いずれのシナリオでもGEMMによるPM2.5由来の死亡者数推計値はIERの約1.7倍であった.次に,GEMMによるコベネフィット推計値,すなわちPM2.5由来の早期死亡回避数はほとんどの地域でIERを上回り,全世界で約34%の増加が見られた.影響関数の選択は,将来シナリオにおいても大きな影響を与えると考えられた.