土木学会論文集G(環境)
Online ISSN : 2185-6648
ISSN-L : 2185-6648
78 巻, 5 号
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地球環境研究論文集 第30巻
  • 鬼束 幸樹, 峰下 颯也, 下江 海斗
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_1-I_6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     魚道の出口はダムや堰の水面付近に位置するため,表層水が選択的に流下する魚道内と魚道下流域とで水温差が生じる.ニホンウナギは外温性生物なため,魚道内と下流域との水温差は遡上率に影響を与える.本研究ではニホンウナギの畜養水温および円柱突起物付き斜路式魚道内の水温が,遡上特性に及ぼす影響を検討した.その結果,ニホンウナギの遡上挑戦率,遡上成功率は,畜養水温および魚道内水温の上昇に伴い増加し,畜養水温が20~25℃で魚道内水温が±5℃の範囲で高い値を示した.また,畜養水温および魚道内水温の上昇に伴い,ニホンウナギの遡上行動が活発になり,あまり休憩せずに遡上することが解明された.

  • 田中 凌央, 糠澤 桂, 宇都宮 将, 鈴木 祥広
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_7-I_16
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     流域規模で環境勾配に沿って生物の分布を予測する生息場モデルは河川環境管理において有益である.しかし,瀬-淵に渡る水理学的変動を考慮した生物分布予測は検討されていない.そこで本研究では,宮崎県小丸川水系において,ランダムフォレストにより瀬-淵の水理学的勾配に沿った底生動物分布モデルを構築した.結果として,瀬-淵間において多くの環境変数(e.g., 傾斜度)に有意差が確認された.3地点以上に出現した156分類群の予測モデルにおいて,標高と集水面積の重要度が最も高く,ついで流速や水深などの水理学的変数が重要であった.水理学的変数を説明変数に加えて4分割交差検証を実施した結果,カゲロウ目,カワゲラ目,トビケラ目,ハエ目の4目,掘潜型,携巣型,匍匐型,造網型,遊泳型の 5 生活型において予測精度が有意に向上した.

  • 吉田 光, 中里 亮治, 桑原 祐史
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_17-I_25
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     福島県浪江町北西部の帰宅困難区域では,2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故の後,避難指示は解除されておらず,解除までにどの程度の時間を要するのか,科学的知見が必要とされている.特に,山間部の渓流の地形は険しく,調査活動そのものが困難である.現状,渓流魚の体内に蓄積された放射性物質を定量化することにより山地渓流生態系内における放射性物質の移行メカニズムに関する議論が行われているが,放射性物質の吸着体としての効果や生物の食物連鎖への影響を検討する上で藻類の分布が1つの着目点となっている.そこで本研究では,渓流における付着藻類およびコケ類の総量を推定することを目的とした分類図の生成方法を検討し,UAVによる空撮画像を用いた1つの方法を提案した.

  • 中井 優貴, 桑原 祐史
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_27-I_37
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     地球温暖化を原因として,海面上昇や熱帯低気圧の強度変化といった水災害につながる気象変化の極端化が進むことが予測されている.結果として沿岸国での水害リスクの高まりが指摘されているため,正確な被害予測を行い,予測結果に応じた適応策を講じる必要がある.ここから,高潮による浸水シミュレーションの精度向上を目的とし,著者らは全球を対象とする堤防データの構築や,堤防データを用いた被害評価を行う研究を進めてきた.しかし,研究の進展に従い,高潮の河川遡上を考慮する必要性が確認された.そこで,本研究では,世界の各地域を代表する国際河川を対象とした河川堤防データを生成し,その効果を検証した.その結果,新たに16の河川下流域において河川堤防データが完成し,河川堤防データを構築したことによる浸水域の変化を確認した.

  • 藤森 真一郎, 大橋 春香, 越智 雄輝, 長谷川 知子, NYAIRO RISPER BUYAKI , 松井 哲哉, 平田 晶子, 高橋 ...
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_39-I_50
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     生物多様性の維持は持続可能な開発を考えるうえで極めて重要な社会的な課題である.本研究では経済モデル,土地利用モデル,生物多様性モデルという3つのモデルを統合的に用いて,世界のどの地域の食ライフスタイル変化と生産側の技術変化が生物多様性に影響するのかを明らかにした.結果から,途上国における食ライフスタイル変化の影響が大きいことがわかった.中国やインドといった人口の多い国の取り組みももちろん重要であるが,アフリカや南米といった面積の大きな地域で肉消費の増加を抑制したライフスタイルを目指すことが生物多様性向上の観点からは効果が大きく,今後の社会の施策や政策策定においてこれらを考慮することが求められる.

  • 石川 彰真, 呉 修一, 菊地 大智, 武田 尚樹, 青木 明日香
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_51-I_61
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     近年,地球温暖化による極端気象の増加から洪水災害の頻度・規模が拡大している.洪水被害の激甚化に対し,流域全体で水害を軽減させる流域治水や各種適応策の検討が重要となっている.富山県河川では河道内に植生の繁茂が多く見られ,植生伐採による水位低減効果が期待できる.また水田土地利用が多く田んぼダムによる降雨の貯留効果も期待されている.本研究では富山県河川を対象に将来流量の変化を評価し,植生伐採と田んぼダムの効果を水位および侵食ポテンシャルの観点から評価した.植生伐採の効果は,植生が多く繁茂する小矢部川で4℃上昇を想定した場合,河川全体で平均0.2mの水位低下となった.田んぼダムは水田の土地利用が多い小矢部川で高い効果を発揮し,4℃上昇気候を想定し,田んぼダム適用率100%の場合で平均0.93m,50%で0.44mの水位低下となった.

  • 小野 泰照, 長谷川 知子, 藤森 真一郎
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_63-I_70
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     GHG排出量削減取り組みの一つとして畜産物の消費抑制などの消費者による取組が報告されている.しかし,これまで畜産物の消費抑制による食料システムや土地利用への具体的な影響は評価されていない.本稿では畜産物の消費制限による環境および食料システムへの影響を明らかにすることを目的とする.具体的には,世界経済モデル(AIM/Hubモデル)を用いて,畜産物の消費制限による森林の炭素吸収量,GHG排出削減量,土地利用状況,窒素肥料投入量,水資源利用量を明らかにする.その結果,世界全体で畜産物の消費制限を行ったところ,2050年において世界のGHG排出量は約962MtCO2eq/年減少した.同時に,牧草地面積は約399Mha減少し,森林面積は約93Mha増加し,それに伴い二酸化炭素吸収量は約236MtCO2eq/年増加した.加えて,灌漑水量は200million m3/年減少し,窒素使用量は3百万トン窒素換算量減少した.これらのことから,畜産物の消費制限はGHGの排出量削減だけでなく,森林保全や水資源や窒素肥料削減など環境保全の観点でも便益があることが示された.

  • 吉原 愛実, 和田 有朗
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_71-I_78
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     現状の小学生の食べ物を大切にする意識や,食品ロスに関する知識,食品ロスを発生させない行動,および小学生が食育を受講することによるそれらの意識の変化を考察した.現状の小学生は,日頃から食べ物を大切にしており,食品ロスという言葉自体は,ある程度認知されている.そして,食品ロスを発生させない行動の中では,比較的取り組みやすい行動は実践できている小学生が多いが,取り組みにくい行動は,実践できていない小学生が多いことが確認された.また,クイズを取り入れることで食品ロスに関する知識の習得に食育の効果が期待できる.さらに,①食品ロスの発生量の認知度,②その種類,③賞味期限と消費期限の意味の違い等食品ロスに関する知識の習得については,食育による効果が期待できることが明らかになった.

  • 伊藤 涼太朗, 藤森 真一郎, 長谷川 知子
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_79-I_85
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     今世紀末までに産業革命前からの地球の平均気温上昇を2℃未満に抑える,いわゆる2℃目標を達成する場合,世界の総エネルギー供給量の約20~30%をバイオマスエネルギーで賄う必要があるとされてきた.一方,気候変動緩和対策の一つとして考えられている食肉消費の低減などの食内容の変化は農地や牧草地の利用を変え,バイオエネルギーポテンシャルを変えうる.そこで,本研究では将来の食内容の変化がバイオマスエネルギーポテンシャル量に与える影響を明らかにした.その結果,2050年の現状の延長としての食内容を将来に想定したベースラインシナリオのポテンシャル量は146EJ/年,一方,全世界の食肉消費を制限したシナリオでは261EJ/年のポテンシャル量が得られ, 食内容の変化はバイオマスエネルギーポテンシャル量を大きく増加する可能性が示された.

  • 國武 星佑, 白木 裕斗, 吉川 直樹
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_87-I_94
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     本研究では,籾殻ガス化発電の温室効果ガス(GHG)と大気汚染物質の排出削減効果をライフサイクルアセスメントにより定量化した.対象シナリオは,籾殻ガス化発電シナリオ,籾殻ガス化シナリオ,従来型シナリオとした.機能単位は,1kgの玄米と副産物である籾殻から得られる電力,熱とした.分析の結果,籾殻ガス化発電システムや籾殻ガス化システムの導入により,従来型と比べGHG排出量を6~7%削減できる結果となった.籾殻のガス化過程で得られる燻炭を農地施用した場合,GHG排出量を追加的に6.5%削減できる結果となった.加えて,同システムの導入により,大気汚染物質排出量を44~45%削減できることが示された.事業者へのヒアリングの結果,廃棄物の抑制や燻炭の販売による経済的利益が利点となる一方,籾殻貯蔵場所の確保が課題と示された.

  • 新井 涼允, 豊田 康嗣, 風間 聡
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_95-I_106
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     未観測流域におけるハイドログラフ再現手法として,流量特性あるいは水文時系列データを目的変数として水文モデルをキャリブレートする方法がある.水文モデルのキャリブレーションの目的変数として,ハイドログラフを再現可能な流量特性あるいは水文時系列データを探知するために,国内23流域における数値実験を実施した.流量特性としてBaseflow index(BFI),Flashiness index(FI),年流出高(QMEAN),および流況曲線に関する3指標(Q10Q50Q90),水文時系列データとして陸水貯留量偏差(∆TWS)および土壌水分量偏差(∆SM)を採用した.∆TWSは水文モデルのキャリブレーションの目的変数として,ハイドログラフを再現可能な指標であることを見出した.この理由として,∆TWSは水文モデルの全てのパラメータと関連し,かつ時系列データのために誤差の情報量が多いことが挙げられる.

  • Zy Harifidy RAKOTOARIMANANA, Hiroshi ISHIDAIRA, Jun MAGOME, Kazuyoshi ...
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_107-I_115
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     Understanding the situation of the potential water resources (PWR) available and their spatial distribution is essential for an efficient water management on a basin scale. Water scarcity is a complex issue that many countries in the world, including Madagascar, face. In this article, we assess the potential water resource availability and the competition of use within a basin. Here we show the importance of the water resources assessment within a large river basin scale. Three imbalance indicators were introduced to evaluate the spatial availability, distribution, and variability of the PWR available for daily life use and agriculture. The Indicator N°1 presents the total amount of PWR per capita and agriculture area in the whole basin. The Indicator N°2 indicates the distribution of water compared to the outlet if there is more or less water in the upstream area. Indicator N°3 demonstrates the water variability upstream to downstream. Results reveal the uneven spatial distribution of the water available upstream-downstream which is the core issue of the river basin management. Our results demonstrate how the three imbalance indicators provide a relevant information about the situation of water resources, helping to solve the conflicts of use and to overcome the pressures on water scarcity.

  • Sartsin PHAKDIMEK, Masashi NAKAMURA, Yuta ABE, Daisuke KOMORI
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_117-I_124
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     The basic controls leading to slope failure driven by rainfall are still not well quantified. Therefore, the uncertainty input parameters are considered, such as soil properties and spatial variation of soil thickness, and different spatial resolutions of a grid cell. Those parameters are well-known essential factors controlling shallow landslides. In this paper, the physically-based model is used to evaluate the effect of spatial variation of soil thickness, the spatial distribution of rainfall, and spatial resolution at the Uchi and Gofukuya rivers basin, Marumori town on Typhoon Hagibis event. The model prediction accuracy is evaluated by ROC curve for different scenarios selected by soil thickness model, distribution rainfall, and spatial resolution. As a result of the model, the soil thickness is an important parameter and related to the slip failure plane. In addition, the distribution of rainfall, rainfall intensity and slope gradient affect landslides by increased driving force that causes different landslide characteristics in Uchi and Gofukuya river basins.

  • 小山 直紀, 鈴木 真菜, 清水 啓太, 山田 正
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_125-I_133
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     本研究では,確率限界法検定の理論を基にした二変量極値分布の信頼区間を構成する手法を示し,当該信頼区間を導入した二変量極値解析手法を提案した.同手法では,過去数十年という蓄積が少ない降雨データでは,想定し得る様々な時空間分布が河川流量に対して大きな不確実性をもつ問題に対して,信頼区間を二変量極値解析に導入することで,対象とする降雨量の下で生じうる洪水ピーク流量値およびその信頼限界値を推定できることを示した.さらに,本手法の応用として,大規模アンサンブルデータを用いることにより,将来気候下における降雨とピーク流量に関する洪水リスクについて,定量的に議論することを可能とした.

  • 萩原 照通, 会田 俊介, 風間 聡
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_135-I_142
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     袋型根固め材(FU)の周辺に堆積した土砂に,植生が繁茂することで,生物の生息域拡大,景観の改善,護岸の安定性向上といった効果が期待できる.本研究では,1列に並べたFU上に繁茂した植生が,河川護岸に及ぼす影響について,水理実験と数値計算による検討を行った.検討の結果,洪水時に倒伏する植生でも,周辺の流速を40%程度低減し,護岸の保護機能を有することが示された.植生による洪水時の水位上昇量は0.1m程度であった.一方で,植生の影響で河床洗掘は増大した.FU下部からの土砂流出範囲は,FU幅の半分以下であり,FU自体が傾斜して転落する洗掘量ではなかった.FUに繁茂した植生は,中小河川の水衝部の護岸保護に効果的である.

  • 宮本 善和, 王 林, 藤谷 久, 関田 宏一, 山口 達朗, 伊野 真一
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_143-I_150
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     ブラジルでは,気候変動の影響,都市拡張による郊外斜面地の開発,防災施設の整備の遅れ,ソフト面の防災対策の遅れなどが複合して豪雨による土砂災害が多発している.本稿は,ブラジルの土砂災害の実態と,その防災対策について概観するとともに,ブラジルで実施されている斜面モニタリング手法の傾向を整理し,傾斜センサーによる斜面崩壊検知センサーを含めて斜面災害への適用性について分析・考察したものである.その結果,斜面崩壊検知センサーは,表層崩壊や鉱滓ダム崩壊のモニタリングに概ね適用性があり,住民の的確な避難行動を促す効果が期待できることが分かった.

  • 宮本 真希, 山田 朋人
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_151-I_156
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     本研究では,気象情報として扱われている天気図から前線を抽出する手法を構築し,34年間分の天気図に適用した.前線をグリッドデータとして扱うことが可能となり,6, 7月の九州地方における降雨のうち,前線の周辺100キロメートルでの降雨が占める割合は3割以上であることを示した.さらに,前線が九州地方において南北方向に移動する時に通過した領域における空間平均降雨量は,前線が約300キロメートル移動した時に最大となることを明らかにした.その時の天気図パターンより,前線の南北移動には,前線を伴う低気圧の移動や台風・熱帯低気圧の接近,高気圧の張り出しが影響していることが示唆された.

  • 政本 未織, 小山 直紀, 山田 正
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_157-I_162
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     近年,気候変動により記録的な豪雨が多発しており,各地で甚大な被害をもたらしている.このような豪雨に対して,将来変化を適切に評価し適応策を講じることが重要とされている.我が国では国土交通省による提言等で大量アンサンブル気候予測データを用いた治水計画が進められている.同データは降雨の時空間分布を踏まえた洪水リスク評価が可能であり,本研究では洪水リスク評価を行う際に重要な降雨波形の将来変化分析を行った.降雨継続時間が長くなるにつれ,後方集中型の降雨の割合が多くなることや将来では降雨強度が15~20mm/h程度の雨が長時間降り続けるイベントが多い傾向にあることを示した.

  • Jose Angelo HOKSON, Shinjiro KANAE, Rie SETO
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_163-I_169
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     The Kain-Fritsch (KF) is one of the most-used cumulus schemes in weather prediction models. An improved and scale-aware version of this scheme, called Multi-scale KF (MSKF), brings improvement to the simulated precipitation values which are often overestimated by KF. However, the applicability and performance of MSKF over the Philippines in simulating precipitation are yet to be verified. Herein, we examined these by simulating five typhoon-induced heavy precipitation events in the Weather Research and Forecasting (WRF) Model. The results were compared with the results of three other cumulus schemes – KF, Grell-Freitas (GF), and Tiedtke. Based on the results, the MSKF is applicable for use in simulating heavy precipitations over the Philippines with performance comparable to other schemes. Additionally, MSKF has generally lower precipitation values than KF but does not always perform better. It is suggested to use MSKF like other cumulus schemes – as part of an ensemble forecast. Further research is called upon for the improvement of cumulus schemes.

  • 岡地 寛季, 山田 朋人
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_171-I_177
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     海面砕波飛沫は海上での降雨観測において降雨の中に混在しうるものであり,さらに,内陸における塩害被害,降雨発生要因となる海塩粒子をもたらすものとしての意味を有する.本研究ではディスドロメータを用いた野外での海面砕波飛沫の観測を実施し,得られた粒径分布から風速の関数としての粒径分布式を提案した.同式の提案により,降雨観測時に混在しうる飛沫量の推定や塩害被害及び降雨発生要因となる海塩粒子の元となる飛沫量の推定が可能となった.

  • 阪田 義隆, 明山 雄真, 葛 隆生, 長野 克則
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_179-I_187
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     本研究は,寒冷地(札幌)と温暖地(東京)に立地する事務所ビルに導入する地中熱ヒートポンプ冷暖房システムを対象に,3つの気候変動シナリオを想定した2001~2100年までの100年間における性能をシミュレーションし,地中熱利用の長期的な優位性について考察した.各シナリオの気象推定値は月別値から時別値へ変換することで熱負荷を計算した.地中温度は地表面熱・水収支を考慮した境界条件を与え,採放熱する垂直管と水平管に対応した深における値を推定した.その結果,20年毎の平均期間成績係数は札幌では暖房・冷房,垂直・水平管とも将来的に高くなるが,東京では特に暖房時の熱負荷がシステムの稼働に必要な消費電力に比べ小さくなりすぎ将来的に低下する結果となった.シナリオの違いによる値は札幌では0.1~0.2以下に留まるが,東京の暖房時には0.7程度と大きく,将来予測における不確実性を示す.

  • 川越 清樹, 阿部 翼, 二瓶 茜, 佐藤 大輝
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_189-I_197
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     本研究は,令和元年東日本台風時の五福谷川(宮城県丸森町)における河道沿いの斜面崩壊や土石流の事例を用いて,土砂流出を緩衝した樹木の抵抗力を求めたものである.災害の激甚化を促す恐れのある複合化現象に対する緩和効果を定量化する目的より,レーザープロファイラーやUAVにより取得された空間数値情報を用いて事例を検証した.土砂・洪水氾濫の集中した地域であるものの,五福谷川では,25/54箇所(46%)で樹木の土砂流出の緩衝事例を抽出した.特に大きな緩衝効果を示した領域では,43.73kN/本の樹木(スギ)に相当する抵抗力が発揮されてる結果を得た.なお,樹齢―樹高関係式を参考にすれば,当該地区の樹木の生長量は著しいことが示された.

  • 自見 寿孝, 渡辺 一也, 中川 遥, 齋藤 憲寿
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_199-I_204
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
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     我が国においては台風や豪雨による洪水被害が頻発している.そのような中で河川管理が重要となるが,河道における河床材料の粒度分布は土砂管理の観点からも重要な指標である.しかし,粒径の考慮は河床表層に関するものが多く,より深い地点での河床材料に関する検討はあまり行われていないのが現状である.これらの情報は数値計算の精度にも影響を与えるため非常に重要なパラメーターである.

     そこで本研究では,馬場目川を対象として,現地において複数地点から河床材料を採取し,平面方向と鉛直方向における粒度分布の変化を検討した.また,得られた粒度分布から数値計算を行い,一様粒径および混合粒径で比較を行った.その結果,混合粒径における計算が最も精度が高かった.一様粒径の数値計算では占有率のピーク値を入力した際に最も高くなった.

  • 堀口 俊行, 齋藤 和樹
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_205-I_216
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
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     環境変化に相まって大規模化傾向にある土石流の対策として透過型砂防堰堤が主として建設されている.その捕捉機構は,平常時は水や中小砂礫を下流に通過させることで土砂の供給を維持し,土石流発生時において,土石流の分級現象を利用して巨礫や流木により透過部を閉塞し,後続土砂を捕捉するものである.これは,土石流先端部に巨礫や流木が集中する分級現象が生起する前提で成り立っている.しかし,この現象論からの分級メカニズムに関する研究はあまり進んでいない.これは,土石流の流下距離や流速は水路の長さに制限があるため,直線水路を用いて実験的に観察することは難しいことに起因する.そこで本研究は,無限遠となる回転円筒装置を用いて,水,水と砂,水と流木,砂と流木の混合状態における分級現象生起のための条件および分級時に生起する運動形態について整理し,流木が水と砂の循環作用によって徐々に分級することを確認したものである.

  • 並河 奎伍, 小山 直紀, 草茅 太郎, 鈴木 敬一, 山田 正
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_217-I_224
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     本研究では,従来の物理探査ではカバーできない探査深度・分解能で探査できる宇宙線ミュー粒子を利用した探査を河川堤防に対して行った.観測データより,堤防の幾何形状を捉えることが出来た.また,トモグラフィ解析を行い,堤防内部の密度分布を1m×1mの分解能で推定した.さらに省スペース省人力を目的に開発された半導体小型検出器の河川堤防への導入に向け,性能比較試験として同一構造の二つの検出器の観測実験を行った.筐体温度が急激な変化を起こすことなく,かつ筐体温度差が±1℃以内に抑まる場合,二つの検出器は同等の観測が行えることを明らかにした.

  • 大屋 祐太, 山田 朋人
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_225-I_231
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
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     近年,全国で線状降水帯を伴う豪雨災害が多発しており,本研究では防災上の観点から閾値を満たす 3時間雨量の降水帯の形状と停滞時間から線状かつ停滞する降水帯を定義している.北海道で洪水・土砂災害が発生した事例を基準に線状かつ停滞性を有する豪雨を定義を見直し,観測および大量アンサンブルデータに適用した.その結果,観測及び過去気候に対して,将来気候では線状かつ停滞性を有する豪雨に起因する降雨量は増加傾向になり,特に過去にほとんど発生しなかったオホーツク海側で強い倍率を示した.また降雨帯の平均雨量の上昇に対し,発生数が大きく増加していることが明らかになった.また北海道周辺での海面水温が比較的に高い気候モデルにおいて,その増加傾向は強まる特徴が見られた.

  • 齋藤 憲寿, 加賀谷 史, 池内 孝夫, 佐々木 明日香, 南田 悠, 網田 和宏
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_233-I_238
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     秋田県東部には玉川温泉の源泉である硫酸酸性水(98℃,湧出量9m3/min,pH 1.1-1.4)を起源とする玉川酸性水が流れている.現在は中和処理施設の稼働により田沢湖のpHは4.5から5.8程度まで上昇したが,1940年以前に観測された6.8には回復しておらず,水環境や生態系はまだ取り戻せていない.そこで本研究は玉川酸性水の改善および石炭灰の利用拡大を目的として,フライアッシュを用いて中和剤を作製した.中和実験を行い,pHの変化や中和剤および処理水を分析することで有効性を評価した結果,弱酸性域では中和剤の崩壊や重金属イオンの溶出は見られず,安定して利用できる可能性が示唆された.

  • 関沢 賢, 渡邉 諒一, 藤森 真一郎, 大城 賢, 上田 佳代
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_239-I_250
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     温室効果ガス排出削減は,大気汚染物質排出量及び濃度低下をもたらし,健康被害低減の便益があるとされる.このうち,PM2.5に由来する超過死亡者数の算出には,従来はIER (Integrated Exposure-Response model)という関数が使用されてきた.しかし,近年IERを改良し推計値の大きく異なるGEMM (Global Exposure Mortality Model)が開発された.本研究では排出経路の異なる複数の将来シナリオを用いて2つの関数による健康影響推計値の違い,および関数の違いがコベネフィット推計に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.結果,いずれのシナリオでもGEMMによるPM2.5由来の死亡者数推計値はIERの約1.7倍であった.次に,GEMMによるコベネフィット推計値,すなわちPM2.5由来の早期死亡回避数はほとんどの地域でIERを上回り,全世界で約34%の増加が見られた.影響関数の選択は,将来シナリオにおいても大きな影響を与えると考えられた.

  • 渡邉 諒一, 上谷 明生, 関沢 賢, 藤森 真一郎, 長谷川 知子, 大城 賢
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_251-I_262
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     近年,大気汚染の影響として特にPM2.5による健康影響と対流圏オゾンによる農業影響が注目されている.しかし,その分析に用いる化学輸送モデルの水平解像度の違いが上記項目に与える影響は未解明であった.本研究は,全球大気化学輸送モデル(CTM)を用いて低解像度の全球計算と高解像度の領域計算により,オゾン濃度とPM2.5濃度をそれぞれ算出し,濃度の観測値との適合性,農業・健康影響の推計に与える影響を評価した.その結果,高解像度化による観測値との適合性は顕著に向上せず,世界全体として農業・健康影響の変化も小さかったが,収量損失が大きく異なる地域が存在した.CTMの高解像度化は一部地域の農業影響分析に変化を与えうるが,影響分析全体に与える変化は限定的であると考えられた.

  • 鈴木 準平, 中野 大助, 野田 晃平
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_263-I_269
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     河川における濁りの観測は,土砂動態や河川環境の把握のために重要である.しかし,濁りは出水時に生じることが多く,観測機器の破損や観測実施者の安全性などにリスクを有する.非接触で濁度を観測する手法が開発できれば,それらのリスクを回避できる.そこで本研究では,河川を連続的に撮影した画像から取得した色情報を機械学習に用いて濁度が推定可能か検討した.その結果,色情報のみでは,従来手法である流量と負荷量との関係式L-Q式をベースにした手法より精度良く推定することが難しいことが示された.一方,水位データを加えることで,L-Q式ベースの手法による推定値よりも改善できることが示された.さらに,色情報と水位,光条件を加えることで,出水における水位上昇と濁度上昇に差が生じるヒステリシスを考慮できる可能性が示唆された.

  • 田中 健二, 鵜木 啓二
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_271-I_278
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     北海道東部の大規模酪農地帯の一部では,気候変動に伴う転作や国営環境保全型かんがい排水事業の実施により営農状況が変化している.そのため,水質汚濁物質の流出経路(表面流出,側方流出,地下水流出)の変化やそれに伴う動態変化を予測し,流域規模で水質環境への影響を定量化することが求められている.本研究では,準分布型モデルであるSWATを小流域に適用し,過去,現在,近未来の三時期の営農状況を想定した河川水質解析を実施した.シミュレーションの結果,牧草地から飼料用トウモロコシへの転作により,窒素負荷量の表面流出が増加することが示され,転作農地とその周辺に肥培かんがいによるスラリー状の液肥散布,緩衝帯としての土砂かん止林,沈砂池としての排水調整池を配置することで各流出成分が減少することが示された.

  • 奥山 忠裕
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_279-I_289
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     新型コロナウィルス(COVID-19)下で生じた消費の抑制は,自然環境質への訪問回数を低下させ,自然環境管理の根拠となる便益値をもたらした.本研究の目的は,観察された訪問回数に中止回数を加えることで,観光回数に基づく便益を主便益,消費の抑制分を副次的便益として同時に計測する簡便な評価モデルの構築である.理論モデルとともに,繰り返し離散選択モデルを用いた推計例を示した.データは,2021年中の観光の訪問および中止回数,および観光地の質に関するデータである.実証分析の結果,副次的便益の値は,観察された需要量からの便益値の約84%となることが示唆された.

  • 阪井 瑞季, 小山 直紀, 山田 正
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_291-I_298
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     近年,局地的大雨の発生回数は増加傾向にあり,下水道からの内水氾濫による浸水や水難事故が多く発生している.本研究では,気象庁が発表している降水短時間予報や高解像度降水ナウキャストの予測値の精度検証を行うとともに,下水道工事の安全性確保に関する分析を行った.また,下水道管路内水深も作業員の避難の安全性に大きく関係するため,短時間における降雨量の違いが下水道管路内水深に与える影響を解析した.予測時間が長くなるにつれて予測精度が低くなり,予測値に基づき下水道工事を中止するか否かを判断すると事故発生に繋がる可能性があることや,降雨量の違いが下水道管路内水深に影響を与え,管路内歩行の可否へも影響することを明らかにした.

  • 井上 優希, 峯田 陽生, 糠澤 桂
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_299-I_308
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     気候変化に伴う流況改変の空間パターンを流域全体で評価した研究事例は少ないのが現状である.そこで本研究では,宮崎県小丸川流域を対象に分布型流出モデルを適用し,過去40年間の気候変化とそれに伴う流況改変程度の空間パターンを分布型流出モデルと水文改変指標(IHA)により評価した.研究期間を基準期間と影響期間に分割し,両者のIHAの比により流況改変程度を定量化した.影響期間において,冬季の流量増加と春季の流量減少が確認された.これは気温上昇に伴い冬季における降雪が降雨に変化し,積雪量が減少したことが要因と考えられる.また,上流~中流において日最大流量に有意な正の改変が確認された.よって,上流域において,出水に伴う底生動物の受動的流下の促進が予想され,河川生態系が広範囲で影響を受けている可能性がある.

  • 小山 友梨子, Pham Duy Dong , 渡部 徹, 平山 奈央子
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_309-I_316
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     開発途上国の今後の水道整備の在り方を検討するため,利害関係者の評価や改善要望を定量的に把握する必要がある.本研究では,ベトナムの大学生による水道の利用実態と水道水に対する評価について,地域によるそれらの差異を明らかにするためにアンケート調査を実施し,136件の回答を用いてクロス集計およびFisherの正確確率検定,平均値の差の検定を行った.その結果,都市と農村において水道整備状況や水道水の利用実態が異なるにもかかわらず,両地域において水道水に対する評価が良く,改善要望が高かった.水道整備によって水汲み労働からの解放や健康リスクの減少が実現されたため,満足度が高い一方で,給水される水の水量や水圧の不足,雨季の水質悪化などの新たな問題が生じるため,改善要望が高いことが示唆された.

  • 中澤 祐太, 手計 太一
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_317-I_328
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     今後,世界的に気候関連災害による経済損失や水危機はさらなる増加が予測される.本研究の目的は日本とタイの社会経済特性の相違を通じて,水資源施策と気候変動適応策の相互関係を明らかにすることである.研究方法として,社会経済的背景を考慮した水資源施策の定性的評価及び,水文・気候データを用いた定量的な比較評価を行った.比較評価の結果,日本とタイで同様の水資源政策の変遷が認められたことに加え,日本とタイにおける水資源関連法について位置付けの明瞭さの違いが明らかとなった.また,定量的な比較評価より,水資源施策に関して,日本は極端な気候事象への適応,タイは水文・気候事象に対する経済と農業分野の脆弱性が課題として挙げられた.

  • 宮本 諄也, 横木 裕宗
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_329-I_336
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     沿岸域における気候変動に伴う海面上昇への対応は非常に重要な課題である.本研究では適応策として海岸構造物による防護を想定し,複数の型式の海岸護岸の建設費用を試算することで,日本沿岸域における海面上昇への適応費用の推定を行った.海岸護岸としては,傾斜型,直立型,混成型の3種類を設定し,断面図をもとに建設費用の積算を行った.また,一部部材の取替えにより嵩上げ費用も推計した.気候変動・海面上昇のシナリオにはRCP8.5とRCP2.6を用いた.その結果,海面上昇へ適応するための総費用は,6,680億円~2兆9,600億円(護岸型式によって異なる.既設の護岸は無視)となった.これは,全国のすべての海岸で防護構造物を建設・嵩上げすると仮定した結果となっているが,効果的・経済的な適応策の策定・実施に向けて有用な情報の一つと考えられる.

  • 阪本 蘭, 中嶌 一憲, 森 龍太, 坂本 直樹, 供田 豪, 大野 栄治, 森杉 雅史
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_337-I_348
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,気候変動および社会経済の変動による砂浜の経済的影響を評価するために,将来の砂浜侵食および人口変動による都道府県別の砂浜レクリエーション価値の損失額を計測すること,および砂浜回復を目的とした仮想的な適応策の費用便益分析を行うことである.本研究の結果から得られた主な知見は,1) 気候変動に加えて人口の変化を考慮した場合の砂浜被害額は,SSP1-2.6で2,577億円/年,SSP2-4.5で2,900億円/年,SSP5-8.5で2,678億円/年と推定されたこと,2) RCPおよびSSPの全ての組み合わせにおいて,31から35都府県の適応策が経済効率的であるのに対して,北海道,青森県,徳島県,高知県,宮崎県,鹿児島県の6道県は適応策が経済的に非効率であることである.

  • 児玉 康希, 横木 裕宗, 田村 誠
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_349-I_357
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     本研究は,日本沿岸域を対象として,海面上昇と潮汐による各都道府県の潜在的浸水面積,影響人口,浸水被害額といった浸水影響を評価した.浸水被害額は,従来のマクロ計量経済的な被害額推計手法を見直し,国土交通省の治水経済調査マニュアル(案)に基づき推計した.さらに,高位と低位の温室効果ガス排出経路(SSP5-8.5とSSP1-2.6)を比較し,社会経済シナリオの不確実性評価を行った.全国の潜在的浸水面積は,2050年に約2,111-2,127km2,2100年に約2,261-2,598km2になると推計された.影響人口は2050年には約445-470万人,2100年には約376-492万人となり,浸水被害額は2050年に約143-170兆円,2100年に229-430兆円と推計された.SSP1-2.6は潜在的浸水面積,影響人口,被害額のいずれもSSP5-8.5よりも小さくなり,緩和策の重要性が示唆された.また,従来の推計手法と比べてSSP5-8.5で20倍以上の被害額となり,建物用地や影響人口が集積する三大湾の被害がより顕著となった.

  • 今村 航平, 田村 誠, 横木 裕宗
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_359-I_370
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     気候変動に伴う海面上昇に対する適応策の1つである住宅移転の費用推計方法を提案し試算を行った.防災移転に関する既存の制度である「防災集団移転促進事業」のスキームに従い,土木工事費用などの豊富な実証データを活用することで,信頼性および妥当性の高い費用推計方法を構築した.気候シナリオと社会経済シナリオの組み合わせとしてSSP1-2.6(SSP1-RCP2.6)およびSSP5-8.5(SSP5-RCP8.5)を用いて,それらにおける浸水影響人口を移転させるために必要な費用を推計した.その結果,SSP1-2.6における移転費用の全国総額は2050年に約92-183兆円,2100年に約121-274兆円になると推計された.同様に,SSP5-8.5における全国総額は2050年に約105-215兆円,2100年に約210-501兆円になると推計された.費用に占める都道府県の割合は東京都が大半を占めた.既往研究の防護費用と比較すると,本研究の移転費用の方が高かった.

  • 立川 凌平, 猪股 亮介, 小柳津 唯花, 小森 大輔
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_371-I_377
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     過去25年間の浸水実績を記録した水害区域図を用いて名古屋市における内水氾濫頻発区域を抽出した.内水氾濫頻発区域を形成時期別に分類した結果,1993~2005年の内水氾濫頻発区域の形成は区域内またはその周辺の水田が宅地化したことに起因し,この土地利用変化は内水氾濫発生の地形的要因として影響していることが明らかとなった.2006~2017年に形成された内水氾濫頻発区域は地形的要因としての土地利用変化の影響が小さく,確率降水量の増加により排水路の流下能力が不足し,今まで内水氾濫が未発生であった地域で内水氾濫が頻発するようになったことが示唆された.また,名古屋市の内水氾濫頻発区域は傾斜がほとんどない土地に形成されているため,溢水の流下方向に関係なく,周辺に構造物が存在するだけで内水氾濫頻発区域が形成されやすいことが示された.

  • 小柳津 唯花, 猪股 亮介, 峠 嘉哉, 小森 大輔
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_379-I_385
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     和歌山市を対象に,浸水実績から内水氾濫特性を解明することを目的とした.過去25年間の浸水実績を記録した水害区域図をGISデータベース化し,内水氾濫が複数回発生している内水氾濫頻発区域を抽出した.内水氾濫頻発区域は79区域抽出され,内水氾濫頻発区域は増加したことが明らかとなった.また,内水氾濫頻発区域の発生要因を解析し,25年間の後半13年において都市的及び気象的発生要因の影響が増加したことが示された.都市的発生要因の増加において,内水氾濫頻発区域の直近水田が減少したため遊水能力が減少し内水氾濫頻発区域に内水が直接流れ込むようになった場合と,内水氾濫頻発区域周辺の水田が全体的に減少したため内水氾濫頻発区域直近の遊水能力を超える量の内水が流れ込むようになった場合の2種類の土地利用変化が影響したと推察された.

  • 柳原 駿太, 風間 聡, 多田 毅, 山本 道, 峠 嘉哉
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_387-I_395
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     共有社会経済経路(SSP)別の気候シナリオデータを用いて,気候変動と土地利用変化が洪水被害に与える影響を全国評価した.二次元不定流モデルを用いて洪水氾濫による浸水深を算出した.また,浸水した土地の資産額に浸水深に応じた被害率を乗じることにより洪水被害額を算出した.将来気候における極値降雨の推定に5つの全球気候モデルの出力値を用いた.基準気候(1981年から2000年)から近未来気候(2031年から2050年)にかけて年期待被害額は,SSP1-2.6において2%増加,SSP5-8.5において7%増加すると推定された.基準気候から21世紀末気候(2081年から2100年)にかけて年期待被害額は,SSP1-2.6において33%減少,SSP5-8.5において11%減少すると推定された.

  • 宇野 宏司, 吉永 朗
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_397-I_403
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     伊能図は,江戸時代後期,伊能忠敬によって行われた第1次から第10次測量(1800-1816)までの成果をもとに我が国初の近代測量技術によって作製された地図である.特に,国土の全容を捉えようとする意図から,沿岸部や全国の主要街道を中心とした地理情報が充実している.本研究では,空間情報解析によって,伊能図に見られる地理情報と現在のハザード情報とを結びつけることにより,現存する水害地名の浸水リスクの顕示性や,消失した水害地名によるリスクの見逃し率等について検討した.その結果,市街地化による地名消失が浸水被災リスクの顕示率を下げている可能性や現在のハザードマップや地名からは想起できない洪水リスクを示唆しうる水害地名も少なからず存在していることなどが明らかとなった.

  • 筒井 紀希, 西浦 理, 藤森 真一郎, 大城 賢
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_405-I_416
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     パリ協定は5年ごとに各国の排出削減目標であるNDCの更新を求めており,各国は更新されたNDC(以下,Updated NDC)を提出している.Updated NDC実施による世界全体での排出削減を経済的に達成する手段として,排出量取引が注目されている.本研究は全世界を対象とし,Updated NDC実施時の経済影響(GDP損失),排出量取引の経済的効果を,応用一般均衡モデルを用いて計算した.結果は,Updated NDC実施に伴い先進国を中心にGDP損失の増加を示した.排出量取引の導入により,世界全域,先進国ではGDP損失が減少したが,排出削減目標の低い一部の途上国ではGDP損失が増加した.本研究の結果から,排出量取引は世界全体で経済への負の影響を軽減する一方,一部の途上国では経済的な負担が大きくなり,排出削減の分担方法の検討,途上国への追加の資金援助などの工夫が同時に必要となると考えられる.

  • 西浦 理, 藤森 真一郎, 大城 賢
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_417-I_427
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     温室効果ガス排出削減への関心の高まりと技術進歩に伴い,大気中から二酸化炭素を直接回収する技術(DAC)が注目を集めている.本研究は応用一般均衡モデルにおいてDACをモデル化し,エネルギーシステムや経済への影響を推計した.結果として,世界の気温上昇を1.5度未満に抑える排出削減シナリオにおいて,2050年でのDACによる二酸化炭素回収量は4.9Gt-CO2と推計された.そして,DACの導入はバイオマスの需要を低減させ,食料価格の高騰を抑制する効果を示した.また,DACの導入は排出削減に伴うGDP損失を2050年において21.7%抑制し,等価変分によって計算される損失を4.6%抑制した.本研究の結果からDACはマクロ経済影響を抑制する効果を持つ削減技術として,その選択肢を検討しうると考えられる.

  • 大城 賢, 藤森 真一郎
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_429-I_439
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     本研究は,日本の2050年温室効果ガスネットゼロ排出目標について,先行研究で考慮されていた大気中からCO2を除去する技術による負の排出に加え,多様な方策を考慮したシナリオ分析を実施し,その実現性や対策・費用を評価した.国内対策シナリオとして,水素等の代替燃料拡大,エネルギー需要低減により,負の排出への依存を低減する可能性が示された.海外からの水素等の輸入,排出枠の購入による残存排出の相殺も選択肢となるが,これらはエネルギー・排出枠の輸入額の増加を伴い,2050年の輸入額は2010年を上回る水準となり得ることが明らかとなった.本研究はネットゼロ排出達成に向けた多様な道筋を明らかにした一方で,いずれのシナリオも技術,経済面での課題があり,今後の技術開発,国際制度の状況等を踏まえた継続的な戦略検討の必要性が示唆された.

  • 中間 蒼, 白木 裕斗
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_441-I_449
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     本研究はエネルギー技術選択モデルを用いて,岡山県真庭市で2050年までにCO2排出量を大幅に削減するエネルギーシステム像を明らかにした.分析の結果,対策を実施しないシナリオにおいても2050年に2015年比58%削減を達成可能であること,緩和策の実施により2015年比85%削減が達成可能であることが示された.主な緩和策としては,発電部門・産業部門での地域内バイオマス資源の活用,太陽光発電等による電力自給率100%の達成,電気自動車の普及が選択された.また,産業部門の化石燃料をすべてバイオマスに転換するような極端な対策を実現しない場合,産業部門でCO2排出量が残存する可能性があることが示された.この残存排出を埋め合わせて地域の脱炭素を達成するためには,植林の実施や合成燃料の利用などの追加的な対策を検討する必要があるといえる.

  • 森 翔太郎, 西浦 理, 大城 賢, 藤森 真一郎
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_451-I_461
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     温室効果ガスネットゼロ排出の達成に際して,電化が困難な分野でいかに排出削減を実施するかが課題とされている.近年,こうした分野で水素と大気中より回収したCO2から製造した合成燃料の有効性が指摘されている.本研究では全世界を対象に,エネルギーシステムモデルを用いて2050年ネットゼロ排出シナリオにおける合成燃料の役割を定量的に評価することを目的とした.その結果,ゼロ排出目標を達成するシナリオで,特に液体燃料の需要が存在する運輸部門を中心に合成燃料の導入が進み,合成燃料が重要な低炭素エネルギーキャリアとなりうることがわかった.また,合成燃料の導入により,電化・水素利用技術のシェアの急激な上昇が低減され,既存のインフラ・最終消費側技術を部分的に維持したまま排出削減を可能にする効果が明らかとなった.

  • 瓜本 千紗, 藤森 真一郎, 長谷川 知子
    2022 年 78 巻 5 号 p. I_463-I_471
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/24
    ジャーナル フリー

     世界の温室効果ガス(GHG)のネットゼロ排出の達成において,非二酸化炭素の排出をもたらす農畜産業部門における排出削減が重要な役割を果たすと報告されている.近年では農畜産物の生産側のみならず,その消費側での対策についても提案がなされていることから,本研究では世界全体で農畜産業部門における生産側に加えて,消費側の対策である畜産物の消費制限を考慮した場合の温室効果ガス削減可能量と削減に伴う費用の推計を行った.その結果,2050年における世界全体での農畜産部門のGHG排出削減率は生産側のみを考慮したシナリオで50.2%(対策なしシナリオ比)に対し,生産と消費側両方を考慮したシナリオで69.9%(対策なしシナリオ比)となった.このことは農畜産物の消費側における取組みが20%(対策なしシナリオ比)追加的に排出削減をもたらし,ネットゼロの達成において重要な役割を果たすことを示唆している.

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