2019 年 75 巻 2 号 p. I_919-I_924
広域における氷河の融解量推定は,水資源の持続可能性や海面上昇を考える上で重要である.これまでに広域氷河モデルによる融解量推定を行った研究は複数存在するが,その融解計算は,計算負荷の軽い積算気温法を用いるのが一般的であった.しかしながら,近年,積算気温法は気温上昇に対して過敏であるため,温暖化下では融解量を過大評価する可能性が指摘されている.そこで本研究では,従来の積算気温法に代え,熱収支式による広域氷河モデルの開発を試みた.熱収支法を採用したことにより,氷河表面に存在するデブリ(岩くず等)による融解促進/抑制効果を陽に表現することも可能となった.中央ヨーロッパに存在する3,927個の氷河を対象としたモデルの検証では,質量収支の実地観測や衛星観測による推定値と近い値を示し,モデルの有効性が確認された.