2020 年 76 巻 1 号 p. 243-252
令和元年東日本台風の出水で,荒川扇状地河道では大量の植生流失が生じ,一部は下流側砂礫州の樹林帯にトラップされ,樹林帯端部には流木ダムが形成された.流木ダムは偏流を発生させ,洪水の伝搬特性を変化させる.植生流失やトラップに伴う抵抗変化を現地調査によりモデル化し,今次出水を解析した.砂礫州上では浮遊物トラップにより局所的に流速が低減するものの,破壊・流失に伴う抵抗減による加速域も存在するため,全体的には洪水前の樹林化状態で破壊を考慮しない場合よりも加速域は増加していた.浮遊物トラップのモデル化によって,樹林帯遮蔽域における樹木流失の精度が向上した.河岸における最大水位から川幅の広い荒川において流木トラップの影響は少ないが,トラップに伴う河道内貯留効果によりピーク流出量は10m3/s程度低減した.