本論文は,業務目的の交通時間節約価値を包括的かつ理論的に分析することを目的とする.まず,既往研究のレビューより,業務目的の交通時間節約価値の導出には,費用節約アプローチとHensherアプローチとがあることを示す.次に,業務交通を分析する上では,交通の意思決定者,交通時間節約に支払意思を持つ主体,移動中の労働の有無,業務交通のスケジュール,労働時間外の賃金支払いの有無が,留意すべき点であることを示す.その上で,被雇用者,雇用者,および両者の共同意思決定を含めた10の時間配分モデルを定式化し,それらから交通時間節約価値を導出する.また,これらのモデルを拡張することにより,賃金率プラス公式とHensher公式を導出する.最後に,以上の分析から得られる示唆を整理する.