2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20021
2011 年に発生した東日本大震災は東北地方を中心に甚大な津波被害をもたらし,国民が津波へのリスク認知を改めるきっかけとなった.高リスク地域からの人々の移住により,沿岸域に低所得者が取り残される現象が発生しつつあるとの指摘があるが,日本では市区町村未満の小地域における所得や小地域間の移住データが公開されていないため,検証は困難である.本研究では,小地域における所得が一定の正確度で推定できることを示した上で,南海トラフ地震による大きな津波被害が想定されている静岡県と高知県を対象に,推計所得を用いてこのような現象の実態解明を行うことを試みた.分析の結果,東日本大震災後に両県とも海岸付近で年間世帯収入中央値が低下する傾向にあり,高知県では,標高 0~5m の地域で同変数の値が低下傾向にあったことが示された.