2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27014
人口増加や気候変動に伴い,世界の水不足が深刻化している.この解決のために,食料貿易を通じて水資源が水の豊かな国から乏しい国へ輸出されることが期待される.しかし,これを「仮想水貿易において比較優位が成立するか」と言い換えて検討された数々の先行研究では不完全な仮定を用いて分析が行われており,明確な結論が得られていない.本研究では,対象国における2カ国間の主要作物取引に注目し,取引量と,水資源以外の生産要素を考慮した水資源の相対的な豊富さの関係を分析した.この結果,作物の2カ国間貿易は約60~80%が比較優位理論と整合的であることがわかった.先行研究では世界平均に対して水が絶対的に豊富な国が必ずしも作物の輸出国にならない,すなわち比較優位を否定するものもある.今回の分析でも,総輸出量が総輸入量を上回っている「純輸出国」同士の貿易を見ると水資源の絶対的な保有量は輸出の源泉になっていなかった.しかし,比較優位の本来の定義に照らして「水資源が人口や資本と比較して相対的に豊富であること」に着目すると、純輸出国同士の貿易でも比較優位が成立していることがわかった.すなわち,食料を通じた水資源の取引は経済学的には効率的であると言える.