土木学会論文集
Online ISSN : 2436-6021
79 巻, 27 号
特集号(地球環境)
選択された号の論文の43件中1~43を表示しています
特集号(地球環境)論文
  • 高野 剛志, 戸川 卓哉, 森田 紘圭
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27001
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,気候変動要因及び社会経済要因を考慮した地域社会将来シナリオを,CC-QOL(Climate Change related Quality of Life)指標を用いて定量評価することを目的とする.まず,アンケート調査から市民のCC-QOL要素指標への価値観をコンジョイント分析により推定した.その結果,ライフステージの変化や加齢に伴う適応能力の変化のほか,職業や気候変動への理解によって気候変動リスクに対する価値観が変化することが明らかとなった.さらに,愛知県を対象とした複数の地域社会将来シナリオを作成し,500mメッシュ単位でCC-QOL値を評価したところ,将来は地域間・属性間の格差がますます大きくなることが明らかとなった.そのため,地域によって異なる気候変動影響と市民の価値観の双方をモニタリングし,地域に応じた気候変動リスクへの理解促進と適応策を推進する必要性が示された.

  • 鬼束 幸樹, 夏山 健斗, 飯隈 公大
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27002
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     ダムや堰の取水口に魚が迷入して減耗することが以前から問題となっている.特に水産価値の高いニホンウナギやアユなどの減耗は,地方経済への打撃となる恐れがある.迷入防止手段の一つとして,魚の忌避行動を誘発する光が挙げられる.連続光や点滅光が数魚種の忌避行動に与える影響が解明されつつあるが,ニホンウナギについては未解明である.本研究では,点滅光の点滅周波数を0.3~15Hz,照度を60~1300lxの範囲で変化させ,平均全長300mmの黄ニホンウナギの忌避特性に及ぼす影響を調査した.その結果,上記条件の点滅光をニホンウナギは忌避することおよび点滅周波数および照度の増加に伴いその傾向が顕著になることが解明された.得られた知見を現地に適用することで,ニホンウナギの迷入防止が達成されると期待される.

  • 鬼束 幸樹, 宮川 智行, 中村 大地, 下江 海斗, 渡邊 杏咲
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27003
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     既往の魚道研究では遊泳魚が主な対象魚種となっており,ウナギ等の底生魚を対象にした研究は遊泳魚ほど多くない.そのため,ウナギ用魚道の適切な幾何学形状や水理条件に関して不明な点が多い.現在,ウナギ用魚道の底面素材としてブラシ束,立体網目状マット,粗石および円柱突起物の有用性が認められているが,さらに全長110mm以上のウナギについて,流量を変化させて底面素材の相違による遡上特性の変化を調査する必要がある.本研究ではウナギ用魚道の底面素材を上記の4種類に変化させるとともに流量を変化させ,ニホンウナギの遡上状況を比較した.その結果,ブラシ束を用いた場合は遡上率および遡上成功率が最低値を示した一方,円柱突起物を用いた場合は両率が高い値を示した.後者においては,ニホンウナギが遡上中に躯幹を円柱に巻き付けながら休憩できるため,流出しにくい状況であった.したがって,上記4素材の中では,ニホンウナギの遡上に最適な素材は円柱突起物である.

  • 原田 紹臣, 吉田 恭平, 永井 雅章, 濱 隆博, 森川 裕之, 家戸 敬太郎
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27004
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     近年,魚離れが深刻となっている中,魚肉は脂肪分が少なく微量栄養素も豊富に含むことから,良質のタンパク質源として注目されている.一方,我が国沿岸では磯焼けが広く発生し,その要因としてアイゴ等の藻食魚類の摂餌圧の増大などが指摘されており,それらの漁獲による対策が望まれている.本稿では,磯焼け対策として,旨味成分において有意であることが知られているアイゴの食品利用による漁獲行為の拡大に向けて,官能検査等によるアイゴ料理の嗜好性等について調査した内容を報告する.なお,鮮魚料理(刺身,フライ)における各官能検査評価項目の重要度において,主婦を含む一般人を対象にアンケート調査(試食無し)を実施したところ,刺身及びフライに関して,味が重要である結果が得られた.一方,刺身とフライを対象に試食を通じた官能検査結果等によると,アイゴはマダイより高評価となる項目があることが分かった.さらに,その他のアイゴ料理の官能検査結果によると,燻製,リゾット,ハム・サラダ等が高評価である結果が得られた.なお,被験者の属性によって,各料理への嗜好が異なる傾向である可能性が示唆された.

  • 宇野 宏司, 守山 太陽, 今井 洋太
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27005
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     古来より日本人によって祀られてきた神社では,境内を囲うように社叢林が取り巻いている.こうした社叢林は古くから神社の一部として管理され,有用な地域資源として活用されてきた.しかし,宮司の担い手不足等による管理離れや地域の過疎化が進むにつれ,手が行き届かなくなり,荒廃化が進んでいるところも多い.こうした社会背景を踏まえて,本研究では,地域の身近な半自然空間である兵庫県内の式内社252社の社叢林を対象に空間情報解析やアンケート調査等を行い,植生のもつ生態系サービス機能や植生のある場所での各種災害リスクを捉え,地域資源としての社叢林のもつ価値を明らかにした.

  • 佐藤 大作, 横木 裕宗
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27006
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     一般的に沿岸部の浸水評価では標高データが用いられるが,海岸保全施設が考慮されておらず,過大評価となっていることが考えられる.海岸堤防等の高さは設計基準をもとに整備が進められているが完了には至っていない.本研究ではより現実的な沿岸部での浸水域評価を目指し,日常的に沿岸部に作用する外力に対する海岸防護が整備されているものと仮定し,潮汐,波浪,高潮それぞれの日常的に起こりうる高水面を算出し,それらから日本国沿岸部の海岸保全施設高さの推定を行い,現地調査結果から妥当性を検証した.得られた結果より,本研究で想定した外力が主たる外力と考えられる海岸域では精度よく海岸保全施設高さを推定できたが,津波の影響を大きく受けると予測されている海岸域ではその影響を考慮することでより妥当性の高い推定値が得られるものと推測された.

  • 山本 浩司, 横木 裕宗, 田村 誠, 今村 航平
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27007
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     気候変動に伴う海面上昇への適応策を検討していくことは今後ますます重要となる.本研究では,適応策のうち防護策に焦点を当て,既設の海岸保全施設を考慮した上で,日本沿岸域の海面上昇に対し,複数の適応シナリオに基づき適応費用を推計した.既存研究では,現状の防護レベルを考慮しない潜在的な浸水影響に関する評価がなされており,2020年時点で浸水面積は約2,300-2,400km2と試算されていたが,本研究では2020年時点で約1,000km2となった.2100年まで浸水しないように適応(防護)するシナリオでは,総適応費用はSSP1-2.6で約1.72兆円,SSP2-4.5で約2.03兆円,SSP5-8.5で約3.28兆円と推計された.

  • 小林 薫, 原 龍正, 松元 和伸, 安原 一哉
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27008
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     循環型社会の構築に向けて水産系副産物であるホタテ貝殻の建設工事への活用が試みられているが,環境保全など十分な改善効果が得られているとは言い難い.本研究は,土構造物へのホタテ貝殻の活用による野積みホタテ貝殻量の削減と共に,扁平なホタテ貝殻が有する地盤工学的に特異な特性を活かした河川堤防裏法面補強への適用による二酸化炭素(CO2)削減可能量等を明らかにする.まず,野積み貝殻の酸性雨による貝殻の質量減少に伴うCO2放出量を室内実験により把握した.その上で,河川堤防裏法面補強への適用による超浅層地盤内へのホタテ貝殻敷設による潜在的なCO2削減量を試算・評価した.その結果,酸性溶液による貝殻の質量減少に伴うCO2放出量は,酸性溶液のpH,貝殻の粒径,暴露時間により異なること,また,河川堤防裏法面補強へ適用した場合のCO2削減量の潜在的ポテンシャルを明らかにした.

  • 齋藤 啓貴, 森 翔太郎, 大城 賢, 藤森 真一郎
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27009
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     世界的な気候変動の抑制には,電力の大部分をVRE(変動性再生可能エネルギー)が供給できるかが重要となる.VREの変動性は電力系統に統合の課題をもたらすが,変動性への気候変動影響は未だ考慮されていない.本研究では全世界を対象に,VREモデルを用いて,将来の気候変動がVREの供給ポテンシャルに与える影響を評価し,VRE中心の電力系統の実現可能性に関する示唆を得ることを目的とした.結果,気候変動緩和は,VREの技術的ポテンシャルに正の影響をもたらすことを示した.また,低出力が連続する期間への気候変動影響は小さく,地域的要因に強く依存することが分かった.さらに,大規模太陽光発電の季節間変動性は大きいが,風力発電と組みわせることで緩和される可能性を示した.一方で,VREによって電力の大部分を供給する場合,蓄電池等による変動性への対応が重要となることも示した.

  • 氏家 一哉, 横木 裕宗, 田村 誠, 今村 航平
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27010
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     本研究は,日本沿岸域を対象に 2100年までに予測される海面上昇に伴う潜在的浸水被害額に関して地価を用いて推計し,さらに既存の被害額推計手法と比較を行った.浸水被害額の推計に用いる地価には,公示地価(住宅地),田,畑,用材林の価格をそれぞれ使用し,平均化及び補間処理を行うことで市区町村ごとのデータへと整理した.浸水面積と被害額は,SSP1-2.6,SSP2-4.5,SSP5-8.5の3つの代表濃度経路・社会経済シナリオに基づきでそれぞれ算出した.その結果,全国での潜在的浸水面積は2100年で2,542~2,707km2(SSP1-2.6~SSP5-8.5)になった.また,被害額は,2050年で158~200兆円(SSP1-2.6~SSP5-8.5),2100年で185~428兆円(SSP1-2.6~SSP5-8.5)となった.

  • 山﨑 航我, 藤森 真一郎, 大城 賢, 上谷 明生, 関沢 賢
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27011
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     これまでNOx排出はオゾンの生成に寄与し,様々な環境・社会的な影響を及ぼすと同時に,大気酸化能を上昇させることによりメタンなどの温室効果ガスを減少させる効果があるとされてきた.しかしこれらの影響を包括的に評価した研究は非常に少ない.本研究では大幅な人為起源NOx排出削減が行われた場合の熱放射の変化,オゾンによる健康影響と農業影響をシナリオ分析により推計した.結果として,人為起源NOx排出をすべて削減することにより全球平均メタン濃度は250ppbv上昇し,放射は8.3%上昇,死亡者数と収量損失はともに大幅な減少を見せると推計された.このことからNOx排出削減は大気汚染問題解決に有効であるものの,メタン濃度を上昇させ温暖化を若干加速させることが明らかになり,大気汚染問題と気候変動問題の同時解決に向けたさらなる温室効果ガス排出削減の必要性が示された.

  • 平原 颯太郎, 関沢 賢, 藤森 真一郎, 大城 賢, 伊藤 昭彦, 長谷川 知子
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27012
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     対流圏オゾンは植物のCO2吸収量に悪影響を与えることで知られている.対流圏オゾン濃度は主としてNOxなどの前駆物質の濃度に依存するが,温室効果ガスの排出削減はオゾン濃度を減少させると期待される.一方,対流圏オゾンが植生のCO2吸収量へ及ぼす影響の気候変動緩和策からの解釈は行われていない.そこで本研究は緩和を行わないシナリオと1.5度目標相当の緩和シナリオ下で,植生の純生物相生産(NBP)に対するオゾン影響を定量化した.結果,NBPに対するオゾン影響は緩和策により低減した.全植生を対象とした低減効果は全世界での植林等によるCO2削減量の11-44%に相当し,十分大きいと考えられた.また,CO2削減量として計上できる植林等によるCO2吸収量は,影響の低減に伴い増加したがその変動量は小さかった.

  • 黒川 和馬, 長谷川 知子, 藤森 真一郎, 山﨑 航我
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27013
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     近年増加している対流圏オゾンは酸化力が強く,作物の生育に悪影響を及ぼし,特に作物収量に大きな影響を与えるとされている.本論文では,世界を対象に気候変動緩和策に伴う対流圏オゾン濃度の変化が作物収量変化を通じて食料消費や飢餓リスク人口に及ぼす影響を各気候シナリオに基づいて明らかにした.結果として,1.5度目標相当のシナリオでは世界全体で飢餓リスク人口が47.4万人の減少となった.地域別にみると,現在も深刻な飢餓に直面している中東やその他アジアなどで大きな減少が見られた.これらの対流圏オゾン濃度の軽減がもたらす副次的便益は,途上国を中心とした気候変動緩和策導入のインセンティブになるといえる.

  • 森 かりん, 花崎 直太, 沖 大幹
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27014
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     人口増加や気候変動に伴い,世界の水不足が深刻化している.この解決のために,食料貿易を通じて水資源が水の豊かな国から乏しい国へ輸出されることが期待される.しかし,これを「仮想水貿易において比較優位が成立するか」と言い換えて検討された数々の先行研究では不完全な仮定を用いて分析が行われており,明確な結論が得られていない.本研究では,対象国における2カ国間の主要作物取引に注目し,取引量と,水資源以外の生産要素を考慮した水資源の相対的な豊富さの関係を分析した.この結果,作物の2カ国間貿易は約60~80%が比較優位理論と整合的であることがわかった.先行研究では世界平均に対して水が絶対的に豊富な国が必ずしも作物の輸出国にならない,すなわち比較優位を否定するものもある.今回の分析でも,総輸出量が総輸入量を上回っている「純輸出国」同士の貿易を見ると水資源の絶対的な保有量は輸出の源泉になっていなかった.しかし,比較優位の本来の定義に照らして「水資源が人口や資本と比較して相対的に豊富であること」に着目すると、純輸出国同士の貿易でも比較優位が成立していることがわかった.すなわち,食料を通じた水資源の取引は経済学的には効率的であると言える.

  • 近藤 光, 山口 陽平, 長谷川 知子
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27015
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     世界の総取水量の約70%は農業由来であり,食料生産は多量の淡水を要する.輸入国では食料輸入を通じた淡水の間接消費拡大により他国の淡水資源への依存が高まる一方,生産国ではその分だけ淡水需給が逼迫する.本研究では,2008年と2018年を対象にアジアの食料生産と食料消費に関わる淡水需給率を比較し,どのような食品の仮想水貿易が淡水需給強度を増減させるか分析した.淡水の需要と供給の逼迫程度(淡水需給強度)は淡水利用可能量に対する淡水取水量の比(淡水需給率)で評価した.両年でコメの生産と輸入,輸出それぞれに付随する淡水利用量が顕著に高くなった.食料貿易にはアジア全体として需給強度を大きく変化させるほどの効果はみられなかったが,大部分の国では食料消費に関わる淡水需給率が食料生産に関わるそれを上回った.

  • 藤村 和正, 西浦 定継, 小林 利夫
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27016
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     流域治水の目的は,政策者によって考え方に違いがあり,実施に向けた課題になっている.その解決のため,本研究では土地利用計画との連携を見据え,土地利用別浸透能をメッシュ毎に算定できるように,筆者らが山地流域に適用してきた水循環モデルを改良し,それをニュータウン地域を含む多摩川水系大栗川流域に適用した.そして,1時間単位22年間のデータを用いた流出解析結果から,流域の年水収支量,流況曲線,ハイドログラフの再現性,10出水の再現性を表した.この一連のプロセスによる長期流出,短期流出の精度の検討から,改良した水循環モデルは都市流域において一定の信頼性を示すことができた.

  • 岩間 友宏, Charles John GUNAY , 小山 勇太, 横山 勝英, 酒井 宏治, 小泉 明, 川植 真希, 高橋 大樹
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27017
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     河川上流域の森林は,水源涵養や土砂流出防止などの機能がある.特に土砂流出は,流域の地形や地質,植生などの多くの要因が複雑に関係しており,様々な土砂流出モデルが提案されているものの森林管理を考慮したモデルはほとんど見当たらない.本研究の対象地である小河内ダム流域は,東京都水道局が長年管理し,森林の様々なデータを記録してきた.そのため本研究では,森林管理の特徴について分析を行い,さらに現地調査を行って,樹高や立木密度,土壌の被覆率などを測定した.これらを用いて,樹高,枝下高さ,樹冠開空度などのパラメーターから土壌浸食式を構築した.その後,流域の森林小班ごとに土壌浸食式を適用し,土砂流出の度合いが大きい箇所を視覚化した.その結果,東京都が管理する森林では民有林に比べ土砂流出が少ないことが示された.

  • 阿部 航, 手計 太一
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27018
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     本研究では日本の109一級水系流域を対象に面積―高度比曲線の新しいモデル関数を提案し,最適化法によりモデルパラメータを推定した.その結果,全国109水系のうち80%の流域で決定係数が0.85を超え,面積―高度比関係を精度良く再現することができた.また,最適化法によって得られたモデルパラメータの階層クラスター分類を行い,流域面積や幹川流路延長などの流域の地形的な情報による階層クラスター分類との整合性を検討した.その結果,淀川と庄内川,矢作川と九頭竜川で同一のクラスターに分類されたことから,本研究で提案する新しいモデル関数のパラメータから流域の特徴を抽出できる可能性を示した.

  • 林 義晃, 手計 太一, 吉見 和紘
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27019
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     降水量データは様々な時空間分解能で得られる一方で,それらの違いが流出解析といった水文・水理シミュレーションの解析結果に対して,どのような影響を及ぼすかが十分明らかになっていない.本研究では,その基礎的研究として遠賀川流域を対象として気象庁のレーダー・アメダス解析雨量を用い,空間的条件を変化させて面積雨量値を算出することで,レーダー観測による空間的評価に資する検討を行った.

     それにより,レーダー・アメダス解析雨量のデータ数の抽出率を変化させて,複数ケースによる面積雨量値を算出した結果,非抽出率(間引き率)の増加に伴って,算出される面積雨量値の分布が大きく広がることがわかった.相対頻度の解析結果から,レーダー・アメダス解析雨量のデータ数の間引き率が40%を超えると,データを全く間引かない場合の面積雨量値に対して,二極化するような分布が見られた.

  • 岡地 寛季, 山田 朋人
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27020
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     本研究は,札幌を流れる豊平川上流に位置する定山渓流木処理場で実施した積雪観測及び水文観測結果をまとめ,さらに積雪内部の密度と積雪相当水量を継続的に観測することが可能な誘電センサーを用いた観測結果を紹介する.水文観測と積雪観測を併用することで積雪深のピークと積雪相当水量のピークのタイミングが気温と日射量に同期する特徴が得られた.また,誘電センサーと積雪重量計により観測された積雪相当水量の比較により,降雪期,中期,融雪期において両者の差の特性が変化する特徴が得られ,観測原理を考慮した補正式を適用することで両者の差が小さくなることが分かった.また誘電センサーが積雪相当水量の推定だけでなく,積雪内部の雪質の推定に有用である可能性が示された.

  • 宮本 善和, 王寺 秀介, 藤谷 久, 矢守 克也
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27021
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     気候変動の影響を受けて多発している斜面崩壊から人命を守るため,IoT傾斜センサーを活用した住民参加による斜面防災モニタリングシステムの開発を行うことを目的に,京都府福知山市において試行モニタリングを実施し,その内容を住民の意見,斜面の挙動,避難スイッチの設定のあり方から分析・考察した.その結果,IoT傾斜センサーは身近な斜面の崩壊から住民が逃れるための避難スイッチとなるという効用が期待され,降雨に敏感に挙動する危険な斜面の判定に有益であることが確認された.また,斜面の挙動を十分に考慮して適切な警戒レベルを避難スイッチとして設定することが必要であることが分かった.

  • 奥山 忠裕
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27022
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     本研究の目的は,調査対象者の業種を選別することで,仮想行動法による生産者行動の分析手法について考察を行うことである.調査対象は,旅行業であり,新型コロナウィルスによる死亡リスクを削減するために,旅行価格に追加してよいと考える追加料金に関する質問を行った.死亡リスクを20%削減~80%削減の場合に対し,追加してもよいと考える額の平均値は700円~4700円,中央値は100円~3800円となった.分析の課題として,仮想的な状況の中に企業情報を含める必要があること,個人属性の影響をゼロとして評価結果を導出する必要があることが示唆された.

  • 水村 拓洋, 田口 博之, 中村 仁
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27023
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     避難においては,リスクを適切に把握し最も安全な経路での避難で迅速に身の安全を確保することが重要である.そこで,本研究では,浸水域脱出を最優先とした脱出避難の有効性の検証を目的とした.中小河川の同時氾濫を対象とし,56種類の降雨に対して氾濫シミュレーションを行い,その結果を用いて,ネットワーク分析による避難経路探索を行い,各浸水パターンにおいて各避難手法を評価した.評価した結果,浸水規模が大きくなる降雨ほど脱出避難の効果が高いこと,市外の避難所の活用が有効である地点がいずれの降雨条件においても存在することを示した.また,脱出避難の効果が高い地点は市全体に幅広く分布し,特に,浸水リスク頻度が高い地点の効果が高いことを示した.今後,地区防災計画での浸水リスクに応じた避難経路の検討が望まれる.

  • 松岡 陽生, 岡地 寛季, 山田 朋人
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27024
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     本研究は,利根川上流域と千曲川上流域を隔てる関東山地周辺に2019年台風19号(Hagibis)がもたらした大雨の発生要因について,類似する経路を有した既往台風事例並びに大量アンサンブルデータ(d4PDF)から抽出した事例と比較分析を行なった.その結果,今次台風による千曲川における大雨は南東方向から多量の水蒸気が流入し,雨雲が関東山地を越えたことに加え,台風周辺の反時計回りの風の流れが北側の寒気の影響を受け,北からの乾燥した寒気と南東からの湿った暖気が千曲川流域上空でぶつかることによって発生したことが明らかになった.さらに,今次台風は将来の気象場においても最大規模の台風事例であることを示した.本研究で得られた知見は,今後ある流域を対象とする台風による大雨事例の分析手法として汎用性を有する.

  • 齋藤 雅彦, 渡邊 睦貴
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27025
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     キャピラリーバリアは地盤内への雨水の浸透を抑制する効果が期待され,その性能評価方法に関して,実験的・理論的にも多くの知見が得られている.一方,低透水層から高透水層への浸透時にわずかな不均一性によって発生するフィンガー流と呼ばれる局所的な流れについては,実験的には確認されているものの,定量的評価方法は確立されていない.本研究では,フィンガー流の発生を考慮することが可能である不均一地盤の空間分布モデルを用いて,2次元数値シミュレーションにより,不均一性が遮水性能に及ぼす影響を定量的に評価することを試みた.その結果,不均一場における遮水性能は均一場と比較して上層部の透水性の影響を受け易いこと,また,実降雨を与えた長期的評価においても不均一場では遮水性能が低下することを示した.

  • 松本 大樹, 増永 英治, 横木 裕宗
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27026
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,茨城県南東部に位置する霞ヶ浦において,気候変動に伴う地球温暖化が湖水の水質に及ぼす影響について評価した.2005年から2022年までの18年間の気象と水質データから,7月の気温は1年に約0.1度毎上昇しており,気温と湖の水温間に明確な正の相関関係も見られた.気温の上昇とともに湖の成層が強まり,鉛直混合が抑制されることで湖の底層に貧酸素水塊が発生する.気温の上昇による成層の挙動をより詳細に調査するために,北浦で観測された水質データと気象データを統合し解析を実施した.成層の発達と貧酸素水塊の生成には,風速によるシアー生成と太陽光放射(短波放射)による表面熱浮力フラックスが強く作用していることが確認できた.地球温暖化による気温上昇の影響を確認するために,18年間の中で最も暑い年(2018年)と最も涼しい年(2007年)の水質の違いを調べた.2018年は2007年と比較して,成層度合いが強く,底層の溶存酸素量も小さいことが確認できた.また比較スケールを拡大した暑夏と冷夏の比較でも同様に,暑夏は冷夏と比較して成層度合いが強いことが確認できた.したがって,気温の上昇により湖の水質が顕著に変化していることが示唆された.今後の地球温暖化に伴う気温上昇により,湖の水質状態を変化させる可能性があることが懸念される.

  • 新井 涼允, 佐藤 隆宏, 今村 正裕, 豊田 康嗣
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27027
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     水力発電の発電電力量増大はカーボンニュートラルへの貢献および気候変動の緩和のために,重要な課題の一つである.その一方,近年の異常豪雨頻発化により,利水ダムにおいても治水協力を求められるようになってきている.本研究は,貯水池式水力発電において発電電力量の増大と洪水量の低減を満たすルールカーブを探知する方法を提示した.具体的には,発電および洪水操作を考慮可能な水収支モデルに対し,目的関数を発電電力量の最大化およびゲート放流量の最小化とした多目的最適化アルゴリズムを適用する方法である.ケーススタディーを実施した結果,貯水位を必ずしもルールカーブ通りに調整できないケースが見られたものの,目的関数の特徴をよく反映したルールカーブを得ることができた.

  • 長谷川 禎史, 山田 朋人
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27028
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     豊平峡・定山渓両ダム流域の積雪による水資源についての特性と経年傾向を明らかにするため,水文水質データベースの流入量のデータと,定山渓ダム上流地点において寒地土木研究所と北海道大学が共同で実施している積雪観測のデータを使用した解析を行った.融雪期を4月1日から6月30日までと定義すると,2003年から2022年の豊平峡ダムと定山渓ダムの融雪期のダム湖への総流入量は概ね同期していること,またどちらのダムについても,融雪期の総流入量は年々減少傾向にあることがわかった.定山渓観測サイトにおいて積雪相当水量・積雪深が最大となる日はどちらも早まっており,融雪時期の早期化が確認された.さらに積雪相当水量を用いた観測から,定山渓ダム流域の降雪期の降雪量・融雪量とダム湖への融雪期の流入量との関係を整理した.

  • 松浦 拓哉, 桝山 倫, 手計 太一
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27029
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     本研究の目的は,7年間における塩分,EC,TDS,DO,クロロフィル,濁度,pH,水温の8つの水質の観測結果から,Chao Phraya川の縦断水質特性とSam lae取水場における水環境の実態を明らかにすることである.その結果,縦断水質特性は,塩分,EC,TDS,水温,クロロフィルが乾期に上昇し,雨期に減少する季節変化が確認された.一方,濁度は乾期に減少し,雨期に上昇する季節変化が認められた.pHは明瞭な季節変化が認められなかった.タイ国が水質基準を定めている塩分とDOを用いて,Sam lae取水場における水質環境評価を実施した.その結果,塩分は積算降水量及び雨期の短期化が.強く影響を与えていることが明らかになった.DOはクラス3(4mg/L以上)の割合が減少傾向であり,水質は悪化傾向であることが明らかになった.

  • 吉田 大輝, 筒井 紀希, 西浦 理, 藤森 真一郎, 大城 賢
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27030
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     気候変動問題への関心が高まる中で,木材による鉄鋼・セメントの代替が建築物中に含まれる炭素を長期間貯蔵することにより,気候変動緩和効果を持つと期待される.本研究は全世界を対象とし1.5°C目標を達成させるシナリオにおいて,木材代替が果たす役割を定量的に評価した.結果として,木材代替は2020年から2100年までで0.45-4.0GtCO2eq/yrのGHG排出削減効果を持ち,1.5°C目標シナリオにおける2100年での気候変動緩和策によるGDP損失を0.2-0.9%低減させることが示された.これらの効果の大きさは代替率の設定によって幅が見られたが,実際の代替量は経済的合理性のみでは決まらず,政策による誘導の役割が大きい.本研究で得られた成果をもとにメリット・デメリットを総合的に評価しつつ,政策の議論を進めることが重要と考えられる.

  • 濱本 拓希, 長谷川 知子, 瓜本 千紗
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27031
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     地球温暖化問題における農畜産業部門の占める割合は大きく,人為起源における温室効果ガスにおいて24%を占めている.そのため,これまで研究されてこなかった中南米地域の農畜産業部門におけるGHG排出量,排出削減可能量,効果的な対策技術について評価した.その結果,対策を行った場合,中南米地域全体での排出量は2050年で633MtCO₂eq/年となり,対策をしない場合と比べ528MtCO₂eq/年(45.5%)の削減が可能であることが推計された.対象とした中南米地域34か国のうち,上位3か国(ブラジル,アルゼンチン,メキシコ)の削減量が中南米地域全体での削減量の71.1%を占めた.2050年時点で最も削減効果の高い削減技術は生産性の高い家畜種への変更で次いで肥料の高効率利用であることが示された.

  • 平野 拳士朗, 瓜本 千紗, 長谷川 知子
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27032
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     アジアの温室効果ガス(GHG)の緩和に対して,農畜産業部門におけるGHG削減対策の導入は重要な役割を果たすと報告されているが,アジア全地域の各国レベルでの対策技術の評価はまだ行われていない.このことから,本研究ではアジア36カ国を対象に各国の農畜産業における対策技術により,メタン・亜酸化窒素の削減可能量と削減に伴う費用を明らかにし,費用対効果の高い具体的な削減に向けた対策の提案を行った.その結果,GHG削減対策を行うことで,アジア全体で2050年においてGHG排出量を約1750 Mt CO2eq(同年排出量比約49%)削減できることが明らかになった.

  • 田島 治希, 徐 非凡, 加藤 博和
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27033
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     近年,気候変動による自然災害の激甚化・頻発化が懸念されている.交通分野において自然災害の影響は大きく,例えば鉄道が長期不通や廃止に追い込まれる事例は多数発生している.交通ネットワークについて,気候変動の影響を踏まえて水害対策を推進していくことは喫緊の課題であると言える.そこで本研究では,全国の鉄道路線を対象とした現在と将来における水害リスクの評価を目的とする.水害リスクの評価因数として“ハザード”,“曝露”,“脆弱性”を定義し,それらの積をとることで各路線の“水害リスク値”を算出する.分析を行った結果,20世紀末と比較して21世紀末の水害リスクは持続可能シナリオでは微増するのに対し,化石燃料に依存するシナリオでは大幅に増加するという結果が得られた.

  • 藤下 龍澄, 呉 修一
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27034
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     本論文は,急流な富山県河川を対象に将来気候の洪水ピーク流量および侵食ポテンシャルを評価し,各種適応策での水位低減と侵食抑制効果を評価している.特に2℃上昇を1.5℃上昇に抑えた場合の洪水・侵食リスクの差異と,適応可能性について検討した.結果として150年確率流量における5河川の洪水ピーク流量が2℃上昇では平均1.21倍だが,1.5℃上昇では1.13倍に低減できた.また,侵食ポテンシャルの危険度大の地点割合は2%の増加に抑えることができた.小矢部川では流域内水田の30%で田んぼダムを実施し,植生伐採を組み合わせることで,1.5℃上昇に適応可能な事を示した.田んぼダムは,水田の流域に占める割合,特に下流扇状地ではなく上流域での水田割合が効果に寄与し,植生伐採は,繁茂状況に高水敷での洪水流下時間の長短が効果に寄与することが明らかとなった.

  • 伊藤 悠太, 白木 裕斗
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27038
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     本研究は,合成燃料の利用と地域の特性を考慮したエネルギー技術選択モデルを用いて,2050年カーボンニュートラルを実現する北海道釧路市のエネルギーシステム像を明らかにした.分析の結果,対策を実施しないシナリオでは,2050年のCO2排出量は2015年比61%減となること,気候変動緩和策を講じた場合でも,合成燃料を利用しなければ2015年比80%削減に留まることが示された.具体的な緩和策としては,家庭部門における太陽光発電の導入,産業部門における液化石油ガスへの代替,運輸部門の電化の促進が選択された.加えて,残存する液体・気体燃料需要を合成燃料で代替することにより,2050年カーボンニュートラルが実現可能なことが示された.他方,合成燃料の大規模な導入には,追加的な費用が生じる結果となった.液体・気体燃料需要が残る可能性がある寒冷地や産業集積地の脱炭素化を合成燃料の導入によって進める場合,合成燃料の製造コストの削減が重要と考えられる.

  • 森 翔太郎, 大城 賢, 藤森 真一郎
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27039
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     化学部門からのCO2排出を削減する方策として,バイオマス・電解水素を原料とする生産技術が近年注目されている.一方で,エネルギーシステム全体を包括し,これらを評価した研究は不足している.本研究では全世界を対象としたエネルギーシステムモデルに対して化学品生産技術を明示的に考慮できるよう改良を行い,化石CCS等の他技術との競合を踏まえた上で,バイオマス・電解水素からの化学品生産技術が果たす役割を明らかにすることを目的とする.結果として,電解水素を利用した生産技術はアンモニア生産においてのみの導入に留まり,電解水素と回収CO2の合成による化学品生産は費用対効果の観点から導入されなかった.化石燃料の原料利用に起因するCO2排出の削減は原料代替の中心的な役割を担うバイオマスの利用可能性に強く依存することが示唆された.

  • 丸田 有美, 藤森 真一郎, 高倉 潤也, 大城 賢, 高橋 潔, 長谷川 知子
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27040
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     気候変動は経済損失をもたらし,貧困を増加させ得る.しかし,気候変動緩和策もまた,経済損失をもたらし貧困を増加させ得る.既往研究では,気候変動および気候変動緩和策による貧困への影響を同時に考慮した評価はなされていない.本研究では,世界を対象に,これらが貧困に与える影響を定量的に評価することを目的とした.その結果,パリ協定の2℃目標を達成するシナリオで,気候変動による貧困への影響は低減できる一方,気候変動緩和策による影響は大きくなり,短期的には2600-4200万人,長期的には200-1000万人程度,2℃目標を達成しないシナリオより貧困人口が多くなると明らかになった.これは,世界一律の炭素税を用いた気候変動緩和策が,低所得国に大きな経済損失をもたらすことが要因だと考えられる.気候変動緩和の方策に検討が必要である.

  • 中村 彩華, 越智 雄輝, 長谷川 知子
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27041
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     京都市は全国に先駆けて「2050年二酸化炭素排出量正味ゼロ」を目指すことを表明した.先行研究において,エネルギー起源の二酸化炭素を対象とした同市の排出量正味ゼロの姿の定量化がなされている.本研究では,さらに廃棄物分野も考慮した脱炭素社会シナリオの構築手法を開発し,その手法を京都市に適用することにより,同市の2050年二酸化炭素排出量正味ゼロの実現可能性を検討した.推計の結果,再エネおよび再エネ由来の電力・水素の利用によりエネルギー起源の二酸化炭素排出量を可能な限り削減するとともに,ごみ焼却場へのBECCSの導入を想定することで廃棄物分野の排出が負に転じ,2050年の同市の排出量は吸収量を下回り,排出量正味ゼロの達成が可能であることが示された.

  • 柳原 駿太, 池本 敦哉, 風間 聡, 呉 修一, 藤下 龍澄
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27042
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     本研究は,日本全域における河道内植生の伐採による潜在的な洪水被害軽減を把握することを目的に,衛星画像から算出した正規化植生指標による河道の粗度係数の推計,洪水氾濫解析に基づく被害額計算を行い,植生伐採前後の洪水被害額の変化を評価した.Strahlerの河道位数が4以上の河道の植生を伐採した場合,日本全国の被害額軽減率は1.3%と推計された.被害額軽減率が高い一級水系は順に,関川水系(16.3%),十勝川水系(14.7%),大分川水系(13.6%),天神川水系(11.7%)および小矢部川水系(10.9%)と推定された.植生伐採の実施区間に応じた洪水被害軽減も併せて評価した.その結果,Strahlerの河道位数が5以上の河道の植生伐採による洪水被害軽減効果は,Strahlerの河道位数が4以上の河道の植生伐採による洪水被害軽減効果の8割程度であることが示された.

  • 齋藤 憲寿, 渡辺 一也, 大森 蒼士, 自見 寿孝
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27043
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     大雨による河川流量の増加や河道内の植生,流木が複合的に作用することで洪水被害が拡大している.適切に河川管理を実施するには洪水時における植生や流木の影響を考慮する必要があるが,洪水時において植生と流木が相互作用した場合については検討されていない.そこで本研究は水理模型実験によって植生が繁茂した場合における流木の挙動を把握し,植生の密生度と流木長による水位上昇の関係について検討した.その結果,流木長が短く,そして植生の密生度が小さくなることで洪水時の流木堆積率や水位上昇率が低下することが明らかとなった.

  • 岡本 彩果, 柳原 駿太, 風間 聡, 平賀 優介
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27044
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     本研究は洪水災害が人口変動に与える影響を明らかにするための基礎調査として,日本の全市区町村を対象に,近年の洪水被害事例において,洪水被害が社会人口変化率に与える影響を定量的に分析した.洪水被害の規模を表す変数として,各市区町村における浸水面積率,床下浸水,床上浸水,全壊流失が生じた世帯率を使用し,これらが社会人口変化率に与える影響を重回帰分析と差分の差分(Difference-in-Differences,DID)分析により評価した.結果として,重回帰分析とDID分析のいずれにおいても床下浸水世帯率,床上浸水世帯率および全壊流失世帯率が,社会人口変化率に負の影響を与えることが確認された(p < 0.05).以上の分析により,近年の日本の洪水災害において,洪水被害は市区町村単位の社会人口変化に負の影響を及ぼす,すなわち社会人口を減少させることが示唆された.

  • 鈴木 章弘, 植村 郁彦, 星野 剛, 石原 道秀, 米田 駿星, 山本 太郎, 橋本 慎一, 山田 朋人
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27045
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     近年,計画雨量の超過や雨量の観測記録更新を伴う大雨災害が頻発しているが,気候変動の影響を考慮した地域・流域単位での避難等の災害対応の検討方法は確立されていない.本研究は,気候変動進行時に起こりうる大雨を想定した市町村における避難情報発令等の対応の検討方法の開発を目的として,気候予測データベースに基づく地域単位の洪水シナリオの作成手法,およびシナリオを活用した避難情報発令の事前検討のための演習手法を提案した.本手法を適用して北海道帯広市と実施した実証実験では,気候予測データベースに基づく未経験の規模の洪水シナリオに対する具体的な時刻・地区への避難情報発令が検討され,同様の大雨・洪水発生時に行うべき発令等の対応を事前に議論することが可能となった.

  • 宮本 真希, 山田 朋人
    2023 年 79 巻 27 号 論文ID: 23-27046
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル 認証あり

     北海道における代表的な2つの豪雨災害はそれぞれ2016年台風10号および1981年台風12号の接近・通過時に発生した.本研究では当該事例を対象に気象場分析を実施したことで,両台風が低緯度帯の低圧部において発生し,太平洋高気圧の北東偏により太平洋を北上して北海道に接近した後,西側に存在する寒冷渦に向かって進行していたことを示した.どちらの事例においても山脈沿いに降雨が集中したが,北海道付近に前線が存在していた1981年台風12号の事例では前線沿いにおいても大雨となった.台風と前線が存在する気象場で降雨量が少ない事例も過去に確認された.さらに,2つの事例と同様の気象場の組み合わせを持つ事例は1958年以降,他に存在しなかったことを明らかにした.

feedback
Top