2024 年 80 巻 20 号 論文ID: 24-20134
リーマンショック以降,わが国の労働現場において「人手不足感」が高まっているとされる一方で,人手不足感の決定要因に関する実証研究は不足している.本研究では,特に市場競争の激化が労働環境を悪化させ人手不足を招くという仮説に焦点を当て,政府統計を用いた時系列データの重回帰分析と独自のアンケートデータを用いたパス解析により,人手不足感の要因分析を行った.政府統計の分析からは,業況が良く国内需要が高いほど人手不足感が高まり,生産設備の投資が多く,総実労働時間が長いほど人手不足感が低下する傾向が示唆された.またアンケートデータの分析からは,市場競争の激化に伴って上昇すると考えられる需要の価格弾力性が高いほど,賃金に対する満足度や賃金上昇見込み等の労働条件が低下し,人手不足感が高まる傾向が示唆された.