抄録
1980年代以降の港湾研究は,物流システムを核としつた地域経済的視点へとシフトしていく.その背景には,地理学から援用した「後背地」概念への着目があった.本研究は,港湾研究の発展に寄与した「後背地論」を評価したうえで,物流よりもむしろ生活者の意識と行動の視点から,港湾を有する都市研究への可能性を検討していくものである.そこで,本論では,水産業の生産拠点でもある北海道根室市をとりあげ,2012年に根室市民を対象として実施したアンケート調査をもとにして,人口減少に陥る港湾都市の現状分析をおこなっていくことにする.市民の地域社会における意識や行動を視野に入れて社会構造を分析した場合,ものの流れからだけでは把握できない港湾都市と後背地の関係が浮かびあがる.