2015 年 71 巻 2 号 p. I_951-I_956
本研究では,西表島北西部のウミショウブ群落における種子を対象として,観察・実験データに基づいた数値シミュレーションを実施した.そして,群落の分布や規模を決定付けるだけでなく,衰退・消失した群落の自然回復力に関わる種子の分散力を評価した.
その結果,種子の平均浮遊時間2.4時間の平均移動距離は,261 mに留まることが明らかとなった.これは,東西約10 km,南北約15 kmの西表島北西部のスケールに対して極めて小さいものである.移動距離の小ささの主因は,種子の浮遊時間の短さにあり,さらに群落形成場所の弱い流速にも一因があることがわかった.また,群落間の種子の交流数を調べ,消失した群落には,他群落からの種子の加入がほぼないことなどが示された.これらのことから,ウミショウブ種子の分散力は極めて弱いと結論付けられた.