2018 年 74 巻 2 号 p. I_240-I_245
我が国の漁港の矢板式係船岸の設計では,地域別震度による静的な耐震性能照査手法が長年使用されている.近年の動的な地震応答解析の実用化をふまえ,静的な手法についても動的解析に基づく再検証が求められている.そこで本研究では静的な手法で設計された矢板式係船岸の断面モデルに正弦波を入力する二次元地震応答解析を実施し,部材別の応力と変形量を正弦波の強さと関連付けて整理した.その結果,変形がレベル1地震動に対する許容値に達したときにはどの部材も降伏しなかった.これより,従来の地域別震度に代えて,周波数特性を考慮して変形量を制御する照査用震度を適用できる可能性を見出した.また,発生した部材応力を降伏値と比較すると,前面矢板に比べてタイロッドおよび控え杭の安全余裕が小さく,現行の設計手法の課題が見出せた.