2021 年 77 巻 1 号 p. 22-37
ラオス国のナムニアップ1水力発電プロジェクト(NNP1:出力29万kW)の開発に関わる少数民族モン族520世帯3,500人の移転に際し,出資者である関西電力は,モン族が持つ独特の文化や慣習だけでなく,歴史や現在の境遇に至った背景まで遡り,彼らの将来設計を見据えた移転計画を提示したが,多くの住民が事業者の開発する移転地ではなく自主移転を選択した.この選択に大きく影響したと思われる「土地」「戦争」「ジェンダー」に注目し,文献や既往のプロジェクトの調査,住民へのインタビューを通して,モン族が持つ特有の社会的背景,慣習に起因する移転における意思決定の真意を探った.本論文における少数民族モン族の特質に関する分析・評価の成果は,東南アジアでの少数民族の移転を伴う水力開発を進める上での円滑な合意形成に資すると期待する.