2017 年 73 巻 2 号 p. I_139-I_146
本研究は,高齢者施設における洪水時の「避難開始の判断」の重要性と判断の目安の設定方法を示すことにより,避難確保計画や避難訓練の実効性を高めることを目的とする.過去の水害で入所者を迅速に避難させた3つの高齢者施設の共通点として,市町村が発令する避難情報等に加えて,施設近くの水位情報やダムの放流量など独自の判断目安を持つことが分かった.一方,四国4県の高齢者施設を対象にした洪水時の避難判断に関するアンケート調査では,独自の避難行動開始基準をもっている施設は少なかった.そこで,水位情報を活用した判断目安の設定方法の一例を示すため,2015年関東・東北豪雨で被災した特別養護老人ホームD苑を事例に,現地調査や氾濫解析等を行った結果,施設上流側の複数地点の浸水情報が「避難開始の判断」の目安になり得たことが分かった.