2010 年 2010 巻 p. 20100004
個々人の大動脈瘤などの大動脈疾患リスクを評価する際, 有限要素法を用いた大動脈壁の応力解析は有効な手段であると考えられる. しかし従来の3次元超弾性有限要素解析手法は, 無負荷形状の推定や生体内物性パラメータの決定が困難であるがゆえに複雑性・不確定性を有し, 臨床の現場における実用的診断ツールにはなり難い. そこで本稿では, 内圧を受ける任意の曲面構造について, 内圧と変形後の形状のみから膜応力分布を解析する手法を新たに提案する. この手法は, 無負荷形状の推定や生体内物性パラメータの決定の手続きが不要であるにも拘わらず軸対称問題から大きく外れた曲面構造を簡便かつ精度よく解析できるため, 胸部大動脈などを中心に臨床の現場に広く応用される可能性がある. 本稿では本解析手法の定式化, 及びこれを円環モデルや大動脈モデルに適用した解析例について述べる. また, 本解析手法の結果の有効性を従来の3次元超弾性解析結果と比較することにより実証する.