乱流など低波数から高波数までを含んだマルチ・スケールの現象に対して高精度な数値計算を行うには, 高次精度の計算手法が必要となる. 最も精度の高い計算手法としてスペクトル法が挙げられ, 乱流の直接計算(DNS:Direct numerical simulation)が行われている. しかし, スペクトル法は周期境界条件など単純な境界しか扱えず, 一般的な問題に適用することが難しい. 差分法はスペクトル法に対して精度の面で劣るが様々な問題に適用できるため, 非圧縮流体や圧縮性流体に対して多くの計算手法が提案されている. 高次精度の離散化を構築する方法として, 情報の範囲(ステンシル)を広げることが考えられる. それに対し, マルチモーメント法は一つの従属変数に対して複数のモーメントを定義することで離散化の精度を上げる. 保存型IDO(IDO-CF)法は格子点上の値に加えて積分値を定義することで, 有限体積法と同様に保存則を満たす. IDO-CF法は圧縮性流体や非圧縮性流体など様々な問題に適用されており, 2次元の一様等方性乱流計算においてスペクトル法に匹敵する解像度を得ている. コンパクト差分法(CD法)は格子点上の値に加え空間微分値を陰的に定義することで離散化の精度を上げる. 補間関数上に陰的に定義された空間微分値は時間積分とは無関係に対角行列を解くことで求められ, 同じ精度の一般的な離散化と比較しても4次精度のPade法では1/4程度の誤差となる. また, フーリエ解析により波数空間の解像度においても高波数領域での解像度が非常に高いことが分かる. 本研究では格子点の値と積分平均値など複数の従属変数を陽的に定義する保存型IDO法に, 格子点の値に加えて空間微分値を陰的に定義し拘束条件より定まる対角行列を解くCD法を適用することで, より高次精度の離散化手法を提案した. IDO-CF法にCD法を適用した計算手法では格子点上の空間微分値のみCD法を用いて解かれるため, 全自由度に対して半分の大きさの対角行列を解くだけでよく, さらにコンパクトなステンシルにおいて従来のIDO-CF法よりも高い精度を得ることが可能となる. 本研究では従来の4次精度のIDO-CF法(IDO-CF4)にCD法を適用することで6次精度計算手法(IDO-CD6)と8次精度の計算手法(IDO-CCD8)を提案した. さらに, フーリエ解析を用いて離散化精度を解析した結果, IDO-CF法にCD法を適用することで, 従来の4次精度IDO-CF法に比べ1階微分値, 2階微分値の解像度が高波数領域で劇的に改善した. 実問題としてMaxwell方程式と非圧縮性Navier-Stokes方程式について計算を行った. Maxwell方程式を解く電磁場伝搬の問題に本手法を適用した結果1次元の波の伝搬の誤差において, IDO-CD6およびIDO-CCD8は同じ精度の差分法のCD法と同様の結果を得た. 2次元一様等方性乱流計算ではスペクトル法のエネルギースペクトルの値との比較を行った. 格子点数がN=128
2と少ない場合においてIDO-CCD8の誤差がIDO-CF4に比べ1/3程度, またIDO-CD6の誤差は2/3程度となる. 格子点数をN=512
2と増やすことで, いずれのIDO-CF法においても誤差は減少し, 高波数の先端部分を除いた波数領域においてスペクトル法の結果と良く一致した. 格子解像度の打ち切り波数に近い高波数領域においては, 従来のIDO-CF法の4次精度の離散化ではスペクトル法の結果よりもエネルギースペクトルを大きく見積もってしまうが, IDO-CCD8ではそのような高波数領域においてもスペクトル法と良く一致した. 以上からCD法を用いたIDO-CF法はコンパクトなステンシルで高次精度の離散化が可能であり, 差分法のCD法に比べて解くべき微分値行列の大きさが半分にもかかわらず, 差分のCD法と同様の結果を得ることができる. また, 従来のIDO-CF法より高波数領域で微分値の解像度が非常に高くなるため移流方程式に対して少ない格子数で良い解を得られ, 乱流現象など高波数の波を多く含む現象に対して本論文で提案した手法は非常に有用性の高い手法であるといえる.
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