日本計算工学会論文集
Online ISSN : 1347-8826
ISSN-L : 1344-9443
複素数階微分によるひずみエネルギ関数の1階・2階微分と超弾性モデルへの適用
藤川 正毅田中 真人儀間 麻衣
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2011 年 2011 巻 p. 20110009

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抄録

有限要素法(FEM)による超弾性モデルの利用は,近年では様々な分野への応用例が報告されており,応用性が非常に高い.しかし汎用FEMソフトウェアに組み込まれている超弾性モデルの種類は当然限られているため,独自の構成則を汎用FEMで使用するためには,ユーザサブルーチン機能を利用する必要がある.このユーザサブルーチンは,ひずみエネルギ関数から応力と接線剛性の解析解を算出して実装するのが一般的であるが,ひずみエネルギ関数の数式モデルが複雑になるほど,解析解の導出は煩雑となる.そこで,本論文では超弾性構成則と対象として,ひずみエネルギ関数から応力値と接線剛性の両方を数値近似する計算方法を提案した.ここでは,陰的解法の代表的な汎用FEMソフトウェアであるAbaqus/Standardを例にとり,詳細な実装方法について記した.そして等方性および異方性超弾性モデルに適用し,計算結果の精度や収束性能について詳細に検証した. その結果,以下の知見を得た. ・前方オイラー法(Forward Euler Method, FE法)により,ひずみエネルギ関数からKirchhoff応力を算出する近似式を提案した.また既報の計算法を基にして,ひずみエネルギ関数から接線剛性を算出する近似式を示した.さらに,複素数階微分近似(Complex-Step Derivative Approximation, CSDA)法を利用して,より計算精度の高い近似式に拡張した. ・従来の計算方法では,応力の解析解をあらかじめ導出する必要があった.しかし,本手法は,ひずみエネルギ関数から応力と接線剛性の両方の近似値をただちに算出できる. ・CSDA法による近似計算式では,応力の算出に丸め誤差の影響を受けない.すなわち,十分に小さな変動量を与えてさえすれば,解析結果の精度は解析解のものとほぼ同等となる. ・本計算方法では複素演算が必要となるが,FEMソフトウェアのユーザサブルーチンの多くが採用しているFortran言語は,複素演算を標準装備しており,その実装は容易である. 本手法は,ひずみエネルギ関数を計算するサブルーチンを作成しさえすれば,本論文の例題以外の超弾性モデルへも容易に拡張可能であり,実用性が高いといえる.さらにCSDA法による近似計算では,計算精度も保証されるため,実用面で有用なツールとなりえると考えられる.

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© 2011 The Japan Society For Computational Engineering and Science
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