抄録
重合メッシュ法において, 局所形状等のモデリングのために重ね合わせた2種類のメッシュの相互作用を表す項(以後, これを連成項と記述する)を計算する際に特殊な数値積分が必要となる. 連成項の数値積分において, その被積分関数がグローバル要素境界で不連続となることが高精度な数値積分を困難にしている原因である.
著者は, 被積分関数の不連続境界に対して幾何学的な処理を行い, この問題を根本から解決する方法を提案した. それはデローニー分割を用いて不連続関数を含む積分範囲を連続な関数のみを含む三角形または四面体の部分領域に分割し, それぞれの部分領域でガウス積分し, その総和を取ることで高精度な積分値を得る方法である.
ズーミングと局所形状のモデリングという2つの特徴を持つ重合メッシュ法は, き裂進展解析でよく用いられている. それ以外にも, ボクセル有限要素法において, ギザギザ状となる応力評価点の表面を滑らかに補正する用途も考えられる. ボクセル有限要素法においてギザギザな表面に不適切な応力分布が生じる問題に対して, 多重エンリッチメントを用いて複雑な材料界面を評価した先行研究などがある. 重合メッシュ法を用いてこの問題を克服する場合, ボクセルをグローバルメッシュとし, 3D-CADで作図した形状を四面体二次要素でモデル化し, それをローカルメッシュとして重ね合わせる方法が考えられる. この方法は, ソルバーさえ構築できれば, その他のモデリングおよび可視化に汎用CAEソフトウェアをそのまま使用できる利点がある. その際には, ボクセル要素(六面体一次要素)と, 解析モデルによっては曲面を有する高次要素の重合メッシュ解析となるが, 前述の幾何学的処理に基づく高精度数値積分法は直線・平面を持つ要素を対象としたものであるため, 積分範囲に曲面を含む高精度数値積分法の開発が必要となる.
本論文は, 前報で提案した直線・平面を持つ要素を用いた三次元問題のための高精度数値積分手法を, 曲線・曲面を含む高次要素を用いた三次元重合メッシュ法に適用できるよう拡張することを目的とする.
曲面を有する積分領域に汎用性のある幾何学的処理を行うことは容易でない. よって, 積分領域の曲面境界は要素の中間節点と頂点の追加によって平面に分割することで近似する. この領域分割によって, 曲面を持つ高次要素に対して前報の提案手法をそのまま適用できる.
3種類の計算例を用いて手法の性能および汎用性を示した. 第一の計算例では二次元解析を用いて計算時間と積分精度を既存の手法と比較した. 計算モデルは穴あき板の引っ張り問題とし, 穴の部分を6節点三角形要素のローカルメッシュでモデリングした. 第二の計算例では微視構造を持つ三次元解析において本提案手法が窪みを埋めることなく, かつ被積分関数の不連続境界に沿って適切に積分範囲を分割できるかを検証した. 計算モデルは2つの気泡を有する円柱棒の引張問題であり, 気泡周辺を3D-CADで描画したのち10節点四面体要素でモデリングしたメッシュをローカルメッシュとして用いた. 曲面を持つローカル要素に注目し, 三次元問題でも本提案手法を用いて適切な領域分割ができることを確認した. 第三の計算例では, ボクセル要素に曲面を有する局所形状を付与する用途を示した. グローバルメッシュは四角柱をボクセル分割したものとした. ローカルメッシュは半円柱状に四角柱をくり抜く形状であり, 10節点四面体要素でメッシュ生成した.
これらの計算結果から, 本提案手法は幾何学的処理に計算時間を要する点が課題であるが三次元問題でも想定どおりの領域分割を達成できることが明らかとなった.