日本計算工学会論文集
Online ISSN : 1347-8826
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空気の粘性減衰を考慮したコーンスピーカの振動と音響の連成解析
胡 月趙 希禄山口 誉夫笹島 学笹沼 起史原 晃
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2017 年 2017 巻 p. 20170012

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抄録

スピーカの設計としては, できるだけ忠実に元の音場を再現するのは目標としている. 音を忠実に再現するためには, スピーカの物理特性と再生した音場との関係を解明することが重要である. スピーカに要求される物理特性の一つは, 周波数領域での平坦な音圧周波数応答特性をもつことである. そのため, スピーカの振動解析に関する多くの研究が行われているが, 空気の粘性が考慮されていないため、音圧周波数応答特性の推定精度が低下してしまう可能性がある. 笹島らはイヤホンの音響特性を解析する際に, 空気の粘性減衰を考慮することで精度向上に成功している. イヤホンよりサイズが大きいスピーカの場合でも, スピーカのボイスコイルと磁気回路の間の空間は非常に狭いことから, 空気の粘性減衰が大きく, 推定誤差の要因になる可能性が非常に高く, したがって, 一般的な音響解析では無視される空気の粘性による減衰効果がスピーカの解析精度に対する考慮する必要がある. 本報はコーンスピーカを対象に, 空気の粘性減衰の影響を考慮するため, 独自で振動と音響の連成解析ソフト開発した. 節点変位を共通な未知数として, 対象とする場合の要素に重ねあわせることにより, コーンスピーカの振動と音響の連成解析を行う. 本報では, まず, 振動特性及び音圧周波数応答特性について測定値と空気の粘性を考慮した解析値及び空気の粘性減衰を考慮しない解析値との比較を行う. コーンの振動変位の実測値と解析値がほぼ同じ特徴をもつ結果が得られた. また, スピーカの音圧周波数応答特性の変化と特徴についても従来の文献の見解と一致し, 空気の粘性を考慮した解析法は高い解析精度が得られた. 次に, 本解析法の精度を確認した上で, コーンスピーカの設計上重要と考えられるボイスコイル周りの空気の挙動を検討する. 空気の粘性を考慮した本解析法を用い, 変位を未知数として解くことにより, 空気の動きを確認することが可能となった. ボイスコイルと磁気回路の間にある狭い空間の粘性抵抗などを調整することによって, 意図的にスピーカの細かい特性が設計できる可能性を示している. 最後に, 今まで十分に解明されていないコーンとエッジがスピーカの振動特性に及ぼす影響について詳細な検討を行う。金属材料と紙系材料で作られたコーンの振動特性を解析し, 材料違いによるコーンの振動特性の影響が明らかになった. また, 柔らかい材料と硬い材料で作られたエッジの振動特性についても解析し, コーンの形状を変えずに, エッジの特性だけを変更させながら, 意図的にスピーカの最初のピーク位置など細かい特性をコントロールする可能性を示している. 今後の課題として, 実際のコーンスピーカだけではなく, 複雑な形状のスピーカの解析も検討したいと考えている. さらに, スピーカ部品の形状や材料の物性値を変えて, 音圧周波数応答特性の平坦化を実現するための最適化設計に検討して行く予定である.

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© 2017 The Japan Society For Computational Engineering and Science
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