抄録
近年, 地球環境保護の高い社会的要請により, ウッドセラミックスのような植物に由来したカーボンセラミックス複合材料の研究開発がなされている. 著者らは, 植物由来カーボンセラミックス複合材料の高強度化と産業副産物であるサトウキビバガスの有効利用を目的に, バガス灰と炭化バガス繊維の植物繊維強化カーボンセラミックス複合材料を放電プラズマ焼結法により作製している. その結果, 不均一な長さの炭化バガス繊維の界面接着状態は, 溶融固化したバガス灰のバインダー効果により保持時間および炭化バガス繊維が長くなると向上することを明らかにした.
植物繊維強化カーボンセラミックス複合材料では, 不均一な長さの強化繊維が母材内を分散することで幾何学的には複雑な内部構造を形成する. このような複合材料の内部構造に対して均質化法は, 周期性の仮定が難しいことから不向きと考えられる. そのため, 三角形要素による要素分割の適用が望ましいが, セラミックス複合材料の強度評価には曲げ試験が適用される. 三節点一次要素を用いたFEM解析は, 曲げ変形の解析精度が不十分である. また, FEM解析に母材と強化繊維間の界面接着を取り入れる方法に界面要素の適用があるが, 二重節点の作成が不要な界面要素は, 要素分割時の効率化や直接法ソルバーとの親和性向上の観点から有効である.
以上のことから, 本研究では, 植物繊維強化カーボンセラミックス複合材料の曲げ変形解析に対する高精度化, 要素分割時の効率化や直接法ソルバーとの親和性向上を目的とし, 曲げ変形の解析精度を高めた回転自由度を有する三節点三角形要素 (以降, RGNTri3と称す) に拡張有限要素 (以降, XFEMと称す) のヘビサイド関数を界面節点にのみ適用することで, 回転自由度を有する三角形界面要素 (以降, RGNTriI3と称す) を開発した. RGNTriI3は, 二重節点の作成が不要であり, その要素剛性マトリックスは三角形要素と界面要素から構成されている. そのため, 本研究ではRGNTriI3を「三角形界面要素」と呼んでいる. 本論文では, まず, RGNTri3を用いた界面要素の剛性マトリックスをペナルティ法により導出している. 次に, RGNTri3の変位関数にXFEMのヘビサイド関数を適用し, RGNTriI3の三角形要素と界面要素の剛性マトリックスを定式化している. そして, 基礎的な数値解析例として, 繊維間距離が短い複合材料モデルにおける三角形一次要素とRGNTri3の解析精度およびRGNTriI3のペナルティ数を変化させた際の片持ち梁の変位解に対する差を検討している. 最後に, 提案法の植物繊維強化カーボンセラミックス複合材料に対する有効性の検討として, バガス灰と不均一な長さの炭化バガス繊維を用いた複合材料のき裂進展解析を行った. すなわち, FEM解析モデルを試験片観察および三点曲げ試験結果より作成し, 強化繊維の界面接着状態と分散状態を変化させたFEM解析より得られた三点曲げ試験における最大主応力, 曲げ強度およびき裂進展挙動を議論した. 本論文で得られた結論は以下のとおりである.
(1) RGNTriI3における界面要素は, 従来の界面要素と同じ解析性能であるため, 要素分割時に界面の二重節点の作成が不要であり, 一次要素よりも高精度であることが示された.
(2) バガス灰と炭化バガス繊維を用いた複合材料の最大主応力は, 強い界面接着では界面の強化繊維側, 弱い界面接着では界面の母材側に発生した. このことから, 母材のバインダー効果に起因する界面接着状態の変化を反映した母材と強化繊維間の応力伝達が解析可能であると認められた.
(3) バガス灰と炭化バガス繊維を用いた複合材料の曲げ強度は, 強い界面接着では実験結果と良く一致し, 弱い界面接着では実験結果よりも低くなり, いずれの場合も母材内の強化繊維の分散状態の変化に伴い変動した. このことから, 強化繊維の界面接着状態と母材内への分散状態の変化に伴い, 曲げ強度が変動する解析結果が得られた.
(4) バガス灰と炭化バガス繊維を用いた複合材料のき裂進展挙動として, き裂発生は, 母材と強化繊維間における応力伝達の差異により, 強い界面接着状態では界面の炭化バガス繊維側, 弱い界面接着状態では界面の母材側から発生した. その後, 両状態におけるき裂は, 炭化バガス繊維を貫通しながら試験片内部を進展する力学挙動が解析された.
以上のことから, RGNTriI3を用いることで, 要素の頂点節点のみで曲げ変形に対して高精度な解析性能を有し, 要素分割時に二重節点の作成が不要な界面要素を取り入れたFEM解析が可能になり, 植物繊維強化カーボンセラミックス複合材料の曲げ変形解析に対する有効性が明らかになった.