抄録
真胎生動物では,母体が父親由来の抗原をもつ胎児・胎盤を許容することが必須である.胎児・胎盤に対する免疫寛容の破綻は,習慣流産・不育症,妊娠高血圧症候群などを引き起こす.正常な妊娠の維持には胎児に対する免疫寛容を維持した上で,病原微生物を正しく認識し排除する必要がある.生殖免疫学の領域ではマウス,ラット,モルモット,サルなどが実験に供される.通常,ヒトの妊娠では胎児・胎盤に対するアロの免疫認識が生じる.その破綻を再現するモデルとしてH2ハプロタイプの異なるCBA/J(H2-k)メスマウスとDBA/2J(H2-d)オスマウスを交配する,流産モデルが頻用されている.この系では,未治療の場合,約4割の胎仔が流産,あるいは吸収胚となる.マウスは交配のコントロールが容易で妊娠期間も短いことに加え,ヒトと共通する免疫マーカーが多く同定されているので有用な動物モデルであるが,ヒトの妊娠とは異なる点も多い.ヒトを含む霊長類では,妊娠初期から絨毛性ゴナドトロピンが産生され,妊娠維持にはたらくが,マウス胎盤では産生されない.胎盤形態でも,ヒト,サル,マウスの胎盤はともに血絨毛胎盤であるが,齧歯類では迷路が形成され構造がかなり異なる.その意味で,妊娠サルこそが理想的なモデルであるが,経済的,動物倫理的等の理由から一般的な利用は難しい.本発表では,流産マウスモデルの知見を中心に生殖免疫学領域の動物モデルを紹介する.