抄録
炎症性腸疾患においては,初めてのBiologics抗TNF-α抗体の登場により,免疫過剰制御による炎症抑制に加えて,潰瘍粘膜の修復・再生が疾患再燃を防ぐ上で重要である事が明らかとされ,治療目標が症状制御から,「粘膜治癒」に大きく変化した.これまで免疫統御療法の開発のみであった炎症性腸疾患治療において,俄に粘膜再生医療に期待が集まっている.我々は正常な大腸上皮幹細胞を体外で増やし,長期維持できる技術を開発した.更に,傷害を誘導した別のマウス大腸に移植することで,培養細胞が被移植マウス大腸の傷害部を修復できる事を示した.この成果は,難治性炎症性腸疾患などのヒト疾患に対し,本人の大腸健常部から採取した微小組織を体外で増やして広範囲の傷害部を治療する新しい再生医療技術の基礎になるものと期待されている.我々は既に同様の技術を用いて,わずか4 mmのヒトの大腸内視鏡下生検組織から上皮幹細胞を増やす技術も確立している.これらの研究成果をさらに発展させ,iPS細胞やES細胞による再生医療とは異なる視点に立ち,本来の組織に固有の幹細胞を増やし移植に利用して,難治性炎症性腸疾患に対する再生医療を実現化させようと試みている.更に,正常腸上皮幹細胞培養技術は,腸内細菌および免疫細胞と大腸上皮細胞のinteractionなどの基礎研究に応用できる可能性をもち,特に腸管免疫機構解明への応用が期待される.