抄録
Wntシグナル経路の伝達因子である-cateninは家族性大腸腺腫症の原因遺伝子として同定されたがん抑制遺伝子であるAPC (adenomatous polyposis coli)の不活化により細胞内に蓄積し、蓄積したβ-cateninは転写因子であるT-cell factor-4 (TCF-4)を活性化することで大腸がんの前駆病変である腺腫形成を生じることが考えられている。そこで、-cateninが転写因子であるT-cell factor (TCF)-4と結合することにより生じる転写活性を抑えることで変化するタンパク質プロフィールをモデル細胞にて検討した。
[方法]ヒト大腸がん細胞(DLD1)にN末端の-catenin結合部位を欠きdominant negative様作用を示すTCF4BΔ30をテトラサイクリン調節性プロモータにより厳密に発現をスイッチングした2群の細胞を用い、質量分析計を用いた同位体標識(ICAT)法にて蛋白質発現プロファイルの差を網羅的に検索した。
[結果・考察] -cateninへのTCF-4の結合を競合的に阻害することにより、その発現が2倍以上増減する125の蛋白を同定した。機能分類解析により、これらの蛋白にはnucleic acid binding protein, cytoskeletal protein, oxydoreductaseが大部分を占めていることが明らかとなった。これらの発現変動は大腸がんの発生や進展に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。