抄録
臨床検体を対象としたプロテオミクス解析では、単なる個人差によるタンパク質発現の変動を全くの偶然で統計学的に有意なバイオマーカーと判定してしまうことがある。特に小数例の群間比較や、多数の変数を組み合わせて行うマルチマーカー解析ではこの危険性が高い。臨床的に意義のある安定な結果を得るには充分な症例数の解析と独立した検体での検証が必要である。例えば1000個の変数(蛋白質)が観測される系で10例と10例を比較す
ることを仮定した計算機シミュレーションを行うと、偶然に90%以上の判別率のバイオマーカーを誤発見する期待値は1を超えるが、40例と40例の比較では1.6x10E -10に抑えることが出来る。。
我々が開発してきた2DICAL(2-Dimensional Image Converted Analysis of LC-MS)法はnanoLC-MSから得られるデータを直接比較定量解析できるためスループットが高く、1時間で10万を超えるペプチドの定量解析が可能である(Ono et al., Mol Cell Proteomics 2006, 5:1338)。また煩雑で、再現性を下げ、検体の損失を伴う可能性の高いタンパク質標識が不要で、感度・網羅性が高く、100 fmolレベルのタンパク質が検出可能である。今回さらに2DICAL法を多数例の臨床サンプルの解析に用いるため、液体クロマトグラフィーや質量分析器などのハード面を検討し、再現性と感度を向上させたことに加え、多数症例間の液体クロマトグラフィーの時間補正、群間比較とスペクトラムの可視化が可能なソフトウエアの開発、有意なピークのMS/MSによるタンパク同定の精度の向上を行った。
本法により検討された膵がん症例38例と対照者39症例の比較定量血漿プロテオーム解析の結果を例示し、その是非について解説する。