2023 年 27 巻 1 号 p. 25-29
急性大動脈解離による臓器虚血が脊髄に限局する場合の治療方針は確立していない。今回我々は,偽腔閉塞型Stanford A型急性大動脈解離で翌日手術を予定していた患者が,血圧依存性の対麻痺をきたした症例を経験した。手術までの間,収縮期血圧の上昇を抑え,脊髄灌流圧を維持する目的で脳脊髄液ドレナージを実施したところ,対麻痺の改善を認めた。翌日上行弓部置換術およびオープンステントグラフト内挿術を施行した。術後も脊髄灌流圧70 mmHgを維持するよう脳脊髄液ドレナージを継続し,最終的には自力で歩行するまで回復した。厳重な降圧管理を要する急性大動脈解離の術前に脊髄虚血徴候が出現した際は,脊髄灌流圧を保つために脳脊髄液ドレナージが有用となる可能性が示唆された。