抄録
ヒトは外部情報の約80%を視覚から得ているといわれ、視覚を喪失した場合、QOLは大きく低下する。そのため視覚毒性のリスク評価の重要性は極めて高い。しかし、医薬品を申請するための安全性を担保する非臨床毒性試験ではICH S4ガイドラインにおける眼検査の記載は限定的であり、当該眼検査だけでは、ヒトに外挿できる眼毒性リスク評価は十分とは言えない。
眼は複雑に進化した特殊な組織の集合体で、各組織のバランスによって恒常性を保ちながら機能を維持している。一部の機能の恒常性が破綻した場合、全体の機能に影響を及ぼすことになる。薬物の影響を評価する場合、眼の解剖学的構造や各器官の機能を理解することは得られる変化のメカニズムを解析する助けとなる。
非臨床毒性試験の眼検査においては,各種検査の原理と特徴を充分に理解しておかなければ、認められた変化の評価を誤ることもある。薬物投与前後の検査所見の比較はもとより、用いた動物の種差、系統差、週齢差による特性、発症部位を把握しその意義を考慮することが重要である。また、実験動物には眼の自然発生病変が多数認められることが知られ、薬物投与に起因する毒性所見との鑑別には検査技術の習得と背景データの集積が極めて重要である。動物の眼検査から得られた所見を、ヒトに外挿するためには、臨床的重要性に応じた評価が必要である。
眼球の病理組織標本作製には、慎重な臓器採取及び適切な固定条件の選択が重要で、病変部位を正確に組織標本に反映させるためには眼検査担当者、剖検者及び組織標本作製者が事前に協議し情報を共有しなければならない。病理組織学的変化のみで、眼毒性を診断することには限界があり、他の検査データと関連づけて考慮することが重要である。
以上、眼毒性のリスク評価にあたっては、非臨床毒性試験におけるすべての検査データを総合的に判断することが必要で、そのためには、眼検査担当者はもちろん、試験責任者(トキシコロジスト)、一般状態観察者、組織標本作製者、病理検査者が協力して適切な評価を行わなければならない。