舌は咀嚼・嚥下の全過程において重要なはたらきをしているにもかかわらず,その機能評価が非常に難しい器官である.これまで,舌の運動については,主として開口時の可動性に対する肉眼的評価,ビデオ嚥下造影法による画像評価,口腔内に挿入したプローブに対する押し付け圧の評価などが行われてきたが,生理的な咀嚼・嚥下における舌運動を定量的に評価するには至っていなかった.一方,1990年頃より,圧力センサを組み込んだ口蓋床を上顎に装着し,硬口蓋部における舌の接触圧(舌圧)を計測する試みが行われるようになった.
本稿では,まず著者らが行ってきた口蓋床型装置による舌圧測定法について紹介し,それを用いて明らかとなった若年健常者における水嚥下時の硬口蓋各部における舌圧発現パターンについて解説する.次に,グミゼリー咀嚼時の咀嚼サイクルごとの舌圧発現様相と咀嚼の進行に伴う舌圧の大きさと発現時間の変化について示し,食塊の形成と送り込みへの関与について考察する.さらに,こうした知見をもとに,舌圧を指標とした嚥下機能定量評価法の臨床応用を目的として,現在開発中の舌圧センサシートについて,その特徴,脳血管障害患者,口腔中咽頭癌患者の嚥下障害に対する診断,治療,リハビリテーションにおける有用性について報告する.